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とうらぶ 短編たち

第8章 西洋花梨 加州清光


本丸の敷地は広い。
本丸自体も広くて大きいけれど、
外の土地もとても広い。
この本丸で過ごしてしばらく経つけど
私が足を踏み入れていない場所なんてザラにあるだろう。

池があったり、川が流れてたり、
本丸の裏には林と山もある。
山を修行の場にしている刀剣男士も居たりして。
短刀たちの鬼ごっこやらかくれんぼやらにも
場所が困る事無い程に広大なのだ。

そんな本丸。
内番で手入れをしている畑の他にも
花がそこら中に咲いている。

散歩が心地良い季節。
温かくて過ごしやすい気候に誘われて
本丸の庭を散歩する事にした私は
普段立ち入らないような庭の隅で立ち止まっていた。

「主、ここに居たんだ」
後ろから声をかけてくれたのは加州清光。
今日の近侍を務めてくれていた彼は
仕事部屋に私が居ないと探してくれていたのだろう。

「見て、清光」
「うん?」

私が広い本丸の庭の隅で立ち止まっていたのは、
真っ赤な薔薇を見つけたから。
陽当たりが良い場所で、ちらほらと雑草が生えてるけど
そんな物たちに負けない勢いで薔薇が咲き乱れている。

「凄いね、ココ」
「ね。
誰か世話してたのかな」
薔薇は割と手のかかる植物だというイメージだから
ここまで大きく立派に育てるには手間がかかるだろう。
それ程までに咲き誇っている薔薇。

「勿体ないよね。
せっかくこんなに綺麗に咲いてるのに、
ココじゃ誰も見てくんない」
可愛がられる事を重要視する清光にとっては
誰も近寄らないこの場所で咲いている事が不憫に感じるらしい。

にしても、純和風の本丸にこんなに立派な薔薇が咲いているとは。
綺麗だから一輪自分の部屋に持って帰りたいとも思うけど、
畳の部屋に真っ赤な薔薇の花は似合わない気もする。
やっぱり、此処でこうやって見ている方が良いのかも。
非現実的で、美しすぎるこの光景を。

「あーるーじー」
急に首元に腕を回されて
ぐっと後ろに引かれる。
「なに、清光?」
「花ばっか見てないで俺にも構ってよ。
せっかくここまで迎えに来たのにさぁ」
「あ、ごめん」

すりすりと頭をこすりつけられて
ぎゅうっと清光は私に抱き着く。

「薔薇はいいかなぁ…」
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