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とうらぶ 短編たち

第7章 桃 和泉守兼定


今日は静かだなぁと思う。
まぁ、私が風邪をひいてしまったから
本丸のみんな気を使ってくれているんだ。
賑やかに遊ぶ短刀ちゃん達の声も聞こえない。
普段なら私の元へ遊びに来てくれる男士も
今日ばかりは来ない。
風邪がうつると困るからって
来ないようにお願いをしたのは私だけど、
正直淋しい。

「花子、起きられるか?」
天井を見ながらマイナスに支配されていた思考を断ち切ったのは兼さんの声。
モゾモゾと布団から起き上がる私の背中に
そっと手を回してくれて
兼さんにもたれかかるように座った私。

「食欲無くても、これくらいなら食えるだろ?」
兼さんが持ってきてくれたのは桃。
ピンクと白が綺麗な果実。
つるんとしていて、美味しそう。
「…食べます」
私がそう言えば
「そうか」
って、兼さんは私の頭をぽんぽん撫でた。

兼さんは
まるでそうするのが当たり前の様に私にあーんってしてくれて
普段は絶対そう言う事しない性格だと分かっているから
大人しく甘える事にした。

ひと口、口に含めば
私が桃を咀嚼する様子をとても心配そうに見つめてくれる兼さん。
ごくんって飲み込むと、
また、そうっと私の口に桃を運んでくれる。

長い時間かかったわけじゃないと思うけど、
なんだかとてもこの時間が長く感じて、
でも、最後の一つを口に含んだら
もう終わりなんだってとても短く感じた。

「花子、」
桃の入っていた硝子のお皿を名残惜しく見てたら
兼さんは優しい声で私を呼んだ。
「なんですか?」
って言葉が口から零れる前に
私の唇を兼さんは食んだ。

長い長いくちづけ。
悲しい訳じゃないのに、涙が零れ落ちた。

そんな私に気付いたのか、
兼さんは私の髪を撫でてくれる。
優しい手に触れられるたびに涙が落ちて、
唇が離れたとたんに耐えられなくなって兼さんの胸にしがみついていた私。

「大丈夫だ。
俺も、皆も、此処に居るからよ。

…あんま、思いつめんな」

優しく諭されて、髪を撫でられて、
声も出せずにただただ涙だけが落ちていく。

そんな私の瞼に唇を寄せて
零れ落ちる涙をそっと掬い取っていく兼さん。
それが心地良くて、ホッとして、
知らない間に私は意識を手放していた。



「花子を傷つけるモンはみーんな俺が切ってやる」
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