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とうらぶ 短編たち

第7章 桃 和泉守兼定


ドタドタと廊下をものすごい勢いで走る足音。
だんだんとその音は大きくなって、
私の部屋の前で止まると
スパーーン!
と大きな音を立てて障子が開いた。

「大丈夫か!?」
そのままの勢いで部屋に走り込んできたのは兼さん。
「遠征、お疲れ様です」
遠征に行ってもらっていたのでそのお礼を言えば
「そんな事ぁどうだっていいんだよ!」
言葉の荒さとは正反対の優しい素振りで
私のおでこに手を置いた。

お恥ずかしながら、風邪をひいた。
バカは風邪をひかない、と高をくくっていた私だったのだが
日中と夜の温度差でまんまとやられた。
で、今日一日布団の中で待機。なのだ。

「薬研君が診てくれて、薬も貰ったので大丈夫です」
「そうか…」
多分、遠征から帰って来ても迎えに来ない私について
今日の近侍の薬研君から聞いたのだと思う。
だから、あんなに、
周りを気にする事なく本丸内を走って来てくれたんだ。

そう考えるだけで頬が熱くなる気がする。
「顔、赤けぇな」
兼さんの手がおでこから頬へと移される。
ちょっぴりひんやりしてて、優しくて
それだけで嬉しくなってしまう私ってとても単純。

「遠征、どうでした?」
隊長を任せていたから報告を聞こうとすれば
「治ってからでいいだろ、そんな話」
そう一蹴されてしまった。
「そんな話って…」
「花子の事以上に大事な話なんてないだろ」
恥ずかしげも無くそんな事言われて
顔が熱い。

「飯食えそうか?」
兼さんは純粋に私を心配してくれているらしく、
私の様子を単純に調子が悪いからだと思っているみたい。
「あんまり、食欲無いです」
「だよなぁ」
うーんと少し唸ってから
「ちょっと待ってろ」
スッと兼さんは立ち上がって部屋を出ていった。
さっきドタドタと走り込んできた人と同一人物とは思えない程綺麗な所作で。
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