第8章 螺旋記憶ー従兄妹
それから暫く、俺は羽奏と羽奏の父さんが戻ってくるのを待っていたんだけれど、なんだか嫌な予感は消えなくて、どうにも落ち着かなくて、結局、傘を差して羽奏が消えていったほうに歩きだした。
雨は斜めに降っていて、傘を差している意味なんて分からないくらいベッタベタに濡れたけれど。
キョロキョロ見渡しながら歩いて、最後のほうは駆け足になったか。途中、救急車が俺の横を通り過ぎたけれど、無理矢理にそれは無視した。
何だか騒がしいほうに向かってみれば、何台ものパトカーが赤いランプをくるくる回しながら停まっていて、電柱に前半分が大破したトラックが突っ込んでいて、規制線が張られた向こう側はよくわからないけれど、地面に転がった、骨が何本か折れた真っ赤な傘が、妙に羽奏の傘に似ているような気がした。
ピリリ、ピリリ、
呆然と立ち尽くす俺のポケットの中で、最近買ってもらった携帯が無機質な音を立てた。
相手は、今日仕事のはずの俺の母さんで、応答ボタンを押す自分の指が馬鹿みたいに震えていることに、俺はその時ようやく気が付いた。
「……光太郎?」
電話の向こうの、聞きなれた母さんの声が妙に遠く感じた。
………羽奏、