第8章 螺旋記憶ー従兄妹
全日本選手権の準々決勝と準決勝。
1日に2試合。しかも両方とも強豪だった。
元々体力のない羽奏が心配だったが、何の心配もなく好調も良いとこで勝ち上がった。
試合後、羽奏に会いに行くと、満面の笑みで一直線に飛びついてきた。
俺と羽奏の体格差がかなりあるから、羽奏は、テンションが上がった時、俺に抱き着いてくるのがお約束だった。
体格差があるとはいえ、最初は受け止めきれなかったこともあるけれど、もう慣れて、ふら付かずに小さな体を抱き上げてくるくる回る。
「羽奏お疲れー!!
かっこよかった!すごかったぞ!!」
試合のために高い位置でポニーテールにしている羽奏の髪もくるくる回る。
「光ちゃんありがとー!
バレー楽しい!だいすき!!」
試合後、何故か精神年齢がいくつも下がって、普段は大人っぽい羽奏が途端に妹気質になる。
これもいつものことだ。
『すき』とか『だいすき』を満面の笑みで、思いっきり人に抱き着きながら言う。
『光ちゃんだいすき』とかはしょっちゅうだ。
…幼馴染の蛍ちゃんとやらに言ってないよな?絶対、勘違いするぞ?
「お、光太郎くんじゃないか」
「お父さん」
羽奏の父さんは、俺の母さんと顔がそっくりだ。女顔ってヤツ?身長は180㎝超えで、体格もいいけれど、顔立ちはキレイだ。
羽奏の母さんは、羽奏を産むときに亡くなってるから、羽奏の家は所謂父子家庭ってやつだ。
でも、羽奏の母さんのお父さんとお母さん、つまり羽奏の母方のじいちゃんばあちゃんと一緒に暮らしていて、寂しくはないんだって言ってた。
「頑張ったでしょ!見てた?」
羽奏が俺から離れて、羽奏の父さんに抱き着く。
羽奏は、反抗期って何?という(バレー三昧過ぎだとも言う)レベルだ。
ただ、小さなケンカはあるわけで。
「もう、お父さんなんか嫌い!知らない!!大っ嫌い!!!」
俺が、ボーっとしている間に何があったのか、子供みたいな捨て台詞で叫んだ羽奏が、真っ赤な傘一本持って大雨の中に走り出していった。
「羽奏!?」
俺が後を追いかけようとすれば、横から大きな手が引き留めた。
「大丈夫、俺が行ってくるから。
光太郎くんは中で待ってな。風邪引いちまうぜ?」
それだけ言って、傘も差さずに雨の中駆け出していく羽奏の父さんを見送って、
ふと、遠くなっていくその姿に、ぞくりと背筋が冷えた。