第9章 螺旋記憶ー幼馴染
幼馴染と聞いて誰もが思い浮かべる関係に、僕とカナはある。
カナとは、産まれた日や病院こそ違えど、家が隣で、それこそ物心つく前からの付き合いだ。
幼稚園、小学校、中学校の2年間、そして高校。
僕の隣には、大抵カナがいた。
典型的な幼馴染ってヤツ。
僕が、カナに片想いしていることまで、幼馴染のお決まりパターンを外れない。
カナは、僕の兄ちゃんにも懐いているけれど、年が離れていることもあって、兄ちゃんが学校などで忙しいときは、僕と一緒だった。
カナの家には母さんがいないけれど、カナの父さんとじいちゃんばあちゃんのいるカナの家は、僕にとっても落ち着く場所で、お泊まりだってしていた。
カナは身体が弱くて、小さい頃は入院したり退院したりを繰り返していた。しょっちゅうお見舞いに行く僕は、カナの担当の看護師さんに名前も顔も覚えられていた。
そのくらい、小さい頃のカナは病院ばかり行ってた。
外で遊ぶのも、走るのも禁止されていたカナが、僕には窮屈そうに見えて、だから、”光ちゃん”からバレーを教えてもらったカナが、楽しそうに話すバレーを一緒にやってみたくて。
兄ちゃんがバレーやってたこともあるけれど、僕がバレーを始めたきっかけはそれだ。
カナがどんどんバレーにはまっていくのを、僕はずっと隣で見ていた。
カナもレシーブが苦手だったから、兄ちゃんに2人でレシーブを教えてもらって、カナのトス練習に誰より多く付き合って、それは、カナが日本代表の候補になっても変わらなかった。
そうこうしているうちに、僕は兄ちゃんとすれ違ってしまい、バレーに一直線なカナが眩しくなって、僕とカナのバレーに対する熱量に差があることにも気が付いてしまった。
あの頃はまだ、カナのトス練習に付き合ってた。
カナの練習風景を見に行ったりもした。
そして、あの夏の日が来る。