第7章 迷える子羊
家に帰り、自室の1人用ソファでもちもちのクッションを抱える。(余談だがこのクッション、蛍からの誕生日プレゼントで、無地でシンプルなデザインだが触り心地が最高。抱き抱えても、枕にしても良しのスグレモノだ)
大きめの本棚の半分近くを占めるバレー関連のノート、DVD、本。自分がバレーを出来る可能性はゼロなのに、どうしたって捨てられなかった。
引き寄せられるように、机の上に伏せられた写真立てを見て、そっと視線をクッションに落とす。
まだ、写真を見る勇気はない。
「バレー、したいなぁ」
思わず零れた言葉は完全に無意識で、だからこそ本心でもあった。
今の中途半端なバレーへの関わり方が、蛍以外の烏野メンバーに気づかれていないとしても、誰にとっても良く無いことだというくらい、わかってはいる。
"ちゃんと"関わる勇気も、離れる勇気も持たないだけ。誰のせいでもなく、私はただ、現実を受け入れられていない。
あの日から、逃げ続けた結果だ。
「きっかけには、なるのかなあ?」
バレーを辞めるのが無理だってことは、嫌ってほどわかった。
なら、"ちゃんと"関わる努力をするしかないじゃないか。
「決めた」
手術受けよう。
止まっていたら何も変わらないということだけは、明白なのだから。
スマホを取り出し電話をかける。
「もしもし?」
蛍。
「カナ、どうしたの?」
部員に詳しく教えるつもりはないけれど、色々心配かけてる蛍にはちゃんと教えるべきだと思うから。
「今日の定期検診ね、先生に手術すればちょっとは楽に動けるようになるって言われたから、迷ったんだけど、手術受けることにした」
驚いたのか何なのか、少し間が空いた。
「…そう」
「うん。すぐ行くから、合宿の1回目は行けないや」
学校の担任も、テストは向こうで受けて良いって言ってたし。
「病院は東京のいつものとこ?」
宮城で行っているとこの系列病院だ。お父さんの知り合い?腐れ縁?の人が担当してくれている。
「いつものとこだよ」
「わかった。無理しすぎないでよ」
「……」
『無理しないでよ』じゃないのが、すごく見透かされている気分。
「返事は?」
淡々と圧をかけてこないでほしい。
「…わかった」
「じゃ、気をつけて」
あっさりと切られたスマホを見つめ、もういない誰かに呟いた。
「行ってきます」