第7章 迷える子羊
私は、あんなに冷たいことを言ったのに。
ほぼ八つ当たりで『関係ない』なんて言ったのに。
「及川さんって、損してるって言われません?」
優しすぎるよ。
そう思って聞いたのに、帰ってきたのは爆笑だった。
「くっ、くくっ…。そんなこと、初めて言われた。はー、ほんと、おもしろいな」
本気で聞いてるんだけどな。
「こう言うのはずるいかもだけど、もし俺が損してるように見えるなら、相手が羽奏ちゃんだからだよ」
ボボボっと顔が赤くなったのがわかる。
なにそれ、何それ!
「…人タラシ」
悔しくなって呟いた言葉も、笑顔で流された。
「光栄だよ。
ねぇ、『先輩』でも『お兄ちゃん』でもいいからさ、俺を避けないでね。俺の気持ちに応えられないとか、気にしなくていいから」
やっぱり、及川さんは人生損してる。
「ほら、最寄り次でしょ?気をつけて帰ってね」
「…ありがとうございました。楽しかったです」
ひらりと手を振る及川さんに手を振り返して電車を降りる。
楽しかったな。
ピザも映画もウィンドウショッピングも。普段あまり行かないから、良い気分転換になった。
それに、手術云々でごちゃごちゃになっていた頭が少し冷えた。