第2章 はじまりの土曜日
「はぁ………」
セミダブルのベッドの上、窓からは昇ったばかりの太陽。小鳥のさえずり。
爽やかな朝!と言わんばかりの風景に私は軽くため息をついた。
今日は土曜日。
つい先日烏野高校に入学したばかりなのに、いきなり土曜日に部活に来い、とは此れ如何に。
休日練習なんて久しぶり、と寝惚けた頭で思いつつ支度をする。
「カナ、遅い」
制服に着替えて、朝ごはんを食べて、ジャージなどの部活用品を入れたカバンを持って玄関を出れば、門柱に背を預けて蛍が立っていた。
恒例になった蛍のお迎え。
小学生じゃないんだから一人で行けるって何度言っても聞かないから、もう諦めてるけど、お陰で中学も高校でも蛍と付き合っている疑惑が広がり続けている。
まぁ、家は隣同士だから労力的な問題はないけれど。
兎に角。
「おはよ、蛍」
「ん、はよ」
欠伸を噛み殺している蛍が差し出した手に、カバンを預けて、隣を歩く。
これも恒例。
カバン、そんなに重くないんだけどな。
「影山飛雄くん、日向翔陽くん、かぁ。面白いよね2人とも」
蛍がむっとした表情で私を見下ろす。
「ふーん、興味があるわけ?」
「興味、か。うん、そうだね。スパイカーに恵まれなかったセッターと、セッターに恵まれなかったスパイカーが噛み合ったら楽しくなるよ。きっと」
まぁ、影山くんの方は、一重にスパイカーの問題ではないけれど。
ふぅん、と気の無い返事をした蛍は、不意に立ち止まって私と視線を合わせた。
「で、カナは?中学の時みたいに"マネージャー"するの?」
真っ直ぐに射抜いてくる蛍から逃げるように視線を彷徨わせ、軽く息を吐いた。
「…………フツーにマネージャーやるよ。欲が、出ちゃうからね」
「ま、今はそれでいいよ」
ぽん、と蛍の手が私の頭にのせられ、そのままぐしゃぐしゃかき回された。
蛍はいつだって優しい。
私のことなんて、私よりわかってるんじゃないかなって思うこともあるのに、よっぽどじゃない限り私の意思を尊重して、認めてくれる。
あの日から蛍はずっと側にいて、「嫌」とか言いつつ本心では安心するなーとか思ってるのもきっとバレていて、私だって、依存してるなーとか思うんだけど、この居心地の良い場所を手放せそうにない。
「何、ボーッとしてるの?電柱にぶつかっても知らないからね」
「あ、うん。早く学校行こ!」
![](/image/skin/separater48.gif)