第6章 1つ先の景色
と、思ったんだけれど。
「澤村!!」
澤村先輩の知り合い?
不意に後ろから話しかけてきたのは、常波高校のユニフォームを着た人物。
どことなく、忠くんに似てるな。雰囲気?
「池尻?」
「勝てよ!!たくさん勝てよ!!」
その必死な表情に、"あの時"が一瞬にして思い出された。
光ちゃんも、こんな顔して私を見つめてた。
「勝てよ…!俺達の分も!!!」
ひぅっと自分の喉が鳴るのを、何処か遠くに感じる。
「俺が、お前の分も勝つから!飛ぶから!コートに立って、最強になるから!」
私の手を両手で包み込んで、ボロボロ泣き叫んでた。
大切で大好きな家族で、ちょっとバカだけど憧れのお兄ちゃんで、何より、私にバレーを教えてくれた光ちゃん。
懐かしい顔を思い出して、一瞬にしてそれは真っ黒に塗りつぶされた。
私のせいで。
「…はっ、ひゅ、ごめ、はぁ、光ちゃ、やだ、ちがう、ごめんなさ、」
パシリと片腕で目を覆われ、片耳を塞がれ、荒れに荒れていたぐちゃぐちゃな思考が、ゆっくりと動くのを辞めていく。
「落ち着いて。
今、カナは高校1年生で、烏野でマネージャーしてて、インターハイに来てるんでしょ。ここは体育館。そんで、カナの後ろにいるのは僕だよ」
もう片方の耳に吹き込まれる低い声に、馬鹿みたいに安堵する。
「ひぅっ、けぇ、はっ、けい、けい、蛍!」
身体の前に回された腕に縋りつけば、くるりと身体が回転。蛍の真っ黒な黒のジャージ(私のもだけど)に身体を埋め尽くす形で抱き締められる。
「うん、いるよ、いるから。
ほら、ちゃんと呼吸しなよ。僕も昼ご飯あるんだから」
そうは言いつつも、蛍の片手は私の肩にしっかりと回され、もう片手はゆっくりと髪を梳いている。
流石に、幼馴染の範囲ではない距離感なのはわかっているけれど、わかってるから、お願い、
「いなくならないで…っ」
ぎゅうっと、少し痛いくらいの強さで抱き締めてくるのがちょうどいい。
「……僕はここにいるよっていつも言ってるデショ。いい加減、覚えなよね」
うん、わかってるよ。
蛍は優しいから、私から離れていかないだろう。只の幼馴染、お隣さんっていう肩書きしか持たない私の側にいてくれるんだろう。
蛍に、"大切"が出来るまで。
「……うん、ありがと」
ごめんね、もう少しだけ、そばにいて。