第6章 1つ先の景色
「とは言うものの、"上"ばっか見てると、足掬われることになる」
私が口を閉じると、コーチが後を引き継いだ。
「大会に出てくる以上、負けにくるチームなんて居ねえ。全員、勝ちに来るんだ。
俺たちが必死こいて練習している間は、当然他の連中も必死こいて練習してる。弱小だろうが強豪だろうが、勝つつもりの奴等はな。それ忘れんなよ。
そんでそいつらの誰にも、もう"飛べない烏"なんて呼ばせんな」
「あス!!」
その後直ぐに、武田先生がトーナメント表を持ってきてくれたんだけど、
「一回戦勝てば…2回戦、伊達工も勝ち上がって来れば当たりますね」
先輩たちの因縁の再戦だ。
「ソレだけじゃないですよね。
うちの区画のシードに居るの、青葉城西ですよ」
日向くんと影山くんが殺気立つ。
「おい、さっき言ったこと忘れて無えよな」
2人を諌めるようにコーチが声をかけて、
「わかってます。目の前の一戦、絶対に獲ります」
澤村先輩が応える。
まずは常波高校。
それから。
影山くんがやる気を出した結果なのか、自販機の同時押しを、ボタンに恨みでもあるのかってくらい全力でしてるのを見かけたり、
毎回、夕先輩が旭さんを引き連れて部活にやって来たり、
トス合わせで居残り練メンバーが増えたり、
潔子先輩と他のメンバーに内緒なことをしたり、
山口くんも一緒に帰っていたのが、蛍だけになったりした。
そして、インターハイ予選前日。
潔子先輩との秘密の放課後の集まり(健全)の成果を発揮する時が来た。
「激励とか…そういうの…得意じゃないので…」
とか言ってるけど、下手なのより効果抜群だと思うな、多分。
「せーの!」
潔子先輩と2人で端を持って、横断幕を広げる。
「掃除してたら見つけたから、羽奏ちゃんと一緒にきれいにした」
下でわちゃわちゃ騒いでるけど、本命はこれから。
「潔子先輩!」
小さな声で背中を押せば、ちらりと私を見て、
「うん。
…が
がんばれ」
言うなり、幕の後ろに隠れて、私の手を両手で包み込んでしまった。
一瞬置いて、2、3年生は大号泣。
「うおおおん」
「うわわあん」
下では泣き声が響き、潔子先輩は真っ赤になったまま私の手を握っている。
「ちょっと何コレ、収拾つかないんだけど!」
すごく同意。
途轍もなくカオスな空間だ。