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舞う羽は月に躍る《ハイキュー‼︎》

第5章 ネコとの邂逅



あの試合のあと、『天使さま』は消えた。

決勝戦には俺も行ったが、『天使さま』はいなくて、準々決勝と準決勝で第2セットに出ていたもう1人のセッターがスタメン入りしていた。
日本はブラジルに大差で負けた。

クロは落ち込んで落ち込んで落ち込んで、面倒なやつになった(高校に入ってから出会った、梟谷の木兎さんのしょぼくれモードとやらに既視感を覚えた)。
理由すらわからないまま、『天使さま』があの試合以降、出てくることはなかった。

と書いたが、実は俺、少しだけそれからの『天使さま』を知ってる、かもしれない。

あの試合の翌日の地方新聞の端っこの方、小さな記事で、飲酒運転のトラックが歩道に突っ込み、死亡1名(男性、37歳、天使ーさん)、重症1名(女性、12歳)っていう記事があった。モノクロの記事には、大型トラックが電柱に頭から突っ込んで大破している写真が載っていた。

もう一つ。
俺とクロは、中学の部活に入りつつも、時折猫又監督の現れる体育館に行っていたのだが、あの試合の後数週間、猫又監督はぱったりと来なかった。それまでは、最低でも週一回は来ていたのに。
体育館に顔を見せるようになってからも、その後数ヶ月はしょっ中電話したりメールしたり電話したり電話したり。

この2つを合わせれば、自ずと大体のことは推測出来る。

……クロには言ってない。
本当のことはわからない。俺の憶測でしかないから。


理由は何であれ、『天使さま』は消えた。
もう一度会うなんて思ってもみなかった。
それも、烏野との練習試合で、烏野のマネージャーとして『天使さま』がいて、他の人は『天使さま』を知らないみたいだった。

『天使さま』の前ではいつも通り、いなくなった途端、テンション爆走迷走中だったクロほどではないけれど、柄にもなく俺も、少しはやる気が上がった。

マネージャーとしても有能だった『天使さま』のデータ分析はとても詳しいもので、翔陽と本気で組まれたら本当に脅威だ。

試合の後、『天使さま』に話しかけて、ずっと聞きたかったことを聞いた。

「バレー、もうしないの?」って。

瞬間、『天使さま』は少し、驚いた顔をして真っ黒な瞳を大きく開いて、その瞳にじわり、と楽しさとか懐かしさとか寂しさとか、その他読み取れないほどの感情が滲んで、消えて、

「もう、出来ないから」

どこまでも綺麗に笑ったんだ。
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