第3章 出会いの化学変化
さて、ドリンクを持って体育館に戻れば、烏野は第2セットを取り返していた。
それにしても、想定外に時間がかかったので清水先輩に心配されてしまったではないか。
体育館の雰囲気も、試合の流れも烏野。
けれど、
「多分…ですけど…向こうのセッター、正セッターじゃないです」
油断はいけない。
さっき見た限り、及川さんの捻挫は本当に軽いものだったようだ。念入りなアップが必要になるだろうが、多分、第3セット終わりにはギリギリ間に合う。
セッターとしての役割をしなくたって、烏野にとって及川さんは充分な脅威になる。
なぜなら、
「いくら攻撃力が高くてもさ…その"攻撃"まで繋げなきゃ意味無いんだよ?」
その通りだ。
第3セット24-21で烏野マッチポイント。このまま及川さん不在で勝ち越せるかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。
ピンチサーバーとして入ってきた及川さんの言葉を苦く噛み締めた。
及川さんが指差した通り、蛍に飛んでいくボール。
サーブの威力、上がってる。
コントロールだって、あの頃は苦手だったのに。
「…うんやっぱり、途中見てたけど…6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょ?1年生かな?」
あの威力のサーブ、蛍は取れない。
セッターとしての及川さんは、敵味方関係なく観察力の優れたプレイヤーだ。アップの時間、ほぼ1セットあれば、プレイヤーの得手不得手なんて、大雑把ならわかるに決まってる。
そして、そこを突くことを躊躇しない。当たり前だけど。
座右の銘『叩くなら折れるまで』は伊達じゃない。
2連続、及川さんのサーブで得点。
24-23
後一点で同点。そしてドゥース。
そうしたら烏野は一気に不利になる。
ピンチサーバーとしての及川さんだって脅威なのに、セッターとしての本領を発揮した及川さんに、今の烏野が勝てるはずはない。
だから、
「ナイスワンタッチ日向!!」
日向くんの反射神経を活かしたワンタッチから烏野のチャンスボール。
からの、変人速攻。
及川さんにとっては初対面となる速攻で、さっさと勝ってしまえ。
この速攻、初見なら中々に最強かも。
25-23
試合終了
セットカウント2-1
勝者ーー烏野高校