• テキストサイズ

舞う羽は月に躍る《ハイキュー‼︎》

第3章 出会いの化学変化



体育館の出口で挨拶をすれば、英くんと目があった。お互い、パチリと瞬きして会釈。驚いた様子がないってことは、試合中に気づいてたのかな。
英くんとは、中学1年生、私が転校するまでの半年間だけのクラスメイトだ。遠征あったし、あまり学校にも行けなかったけれど、本の虫だった私は、登校すれば休み時間図書室に籠っていて、図書委員の英くんとは本の趣味が合うので、北川第一の面子では2番目によく話してた。1番はダントツで及川さん。校内じゃなかったけど。

………化学変化、か

武田先生の講評はちょびっとポエミーだったけれど、あの2人について言えば、しっくりくる言い方だ。日向くんと影山くん、お互いがお互いにとって必要だったんだろう。
でも、烏野というチーム全体で見れば、日向くんと影山くんの速攻は武器の1つに過ぎない。『完璧な武器』ともまだ言えないし、そうでなくても、

「いくら日向と影山のコンビが優勝でも、正直、周りを固めるのが俺たちじゃあ、まだ弱い…悔しいけどな」

チームを構成する一人ひとりが全然未熟。

「おお〜さすが主将!ちゃんとわかってるね〜」

及川さん、待ってたのかな。そんな挑発的な顔でアイサツって無理があると思う。
日向くんは乗せられやすいんだなー。単純。

そう、及川さんはセッターとして、チームとして、影山くんをライバル視してる。天才の能力を持つだけでなく、驕ることすらしない歳下の脅威。
だからこそ今の及川さんがいるとも言える。

後ろを向いた及川さんが校舎に歩き出して、私の横を通り過ぎざま、私の頭に手を置いて、耳に口を寄せてきた。

「俺との約束、覚えてるよね。インハイ、俺を見ててよ、羽奏ちゃん」

子どもじゃないんだから頭に手を置かないで欲しいとか、烏野のマネージャーに何を言ってるんだとか、色々言いたいことはあるけれど、

「……もう、叶わないんだよ、及川さん」

及川さんの背中はもう遠くて、私の小さな呟きなんて聞こえるはずもない。
けれど、遠ざかっていく背中が、私を置き去りにするようで、思わず視界が歪む。
バサリと頭からかけられた蛍のジャージで与えられた暗闇にほっとすれば、涙が頬を滑る。

感傷に浸ったのは一瞬。
蛍のジャージで涙を拭いて、ジャージを蛍に突き返す。そして、いつも通りの無表情で、実は心配している蛍に、いつも通りに笑ってみせる。


「帰ろ?」
/ 80ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp