第2章 私の従兄
光太郎ちゃんについていくと、ベンチに案内された。座れというようにポンポンとベンチを叩く。
「 どうだ? うちの学校は? 」
「 まだ分かんないよ、ブレザーも全然慣れない。」
ベンチにもたれて、青色の絵の具を塗りたくったような空を見上げた。
「 赤葦と白福がいるだろ。」
「 あー…、白福さんのお陰でお昼は一人じゃなかったよ。赤葦くんはよくわかんない。」
「 きっとこれから仲良くなれるぞ。」
絶対的な意味を含めた言葉に、違和感を覚える。
「 ちょっと待った。なんでそんなに自信あるの? 」
「 ……実はな、監督がお前をバレー部に入れたいって。」
だから、赤葦と近づくのは時間の問題ということか。どうだか、彼のイメージからして、私のようなぱっと見の印象、何も考えてなさそうなアホっぽい子はお呼びではないだろう。
「 赤葦くんのことは置いといてさ、マネージャーはなしね。」
「 えっ、何でだ!? 」
「 あのねぇ、私は音駒高校のバレー部のマネージャーしてたこと忘れちゃったの? 」
どうして忘れるのとむくれると、シーンと空気が静まった。言い過ぎたかなと思ったけど、私が転校した理由は思い出したくないくらいキツいものとなってしまったのだ。
早く明るく話せるように、呼吸をするように自然と話したい。そうすれば、周りに迷惑をかけないし、バレない。
「 …ごめんっ!! 」
「 …もう、やめてね。」
そう言うと、光太郎ちゃんはおずおずと顔を上げた。
「 もし、杏菜がよければって話で保留してる。これ、仮入部届けだ。…あー、でも試合をすることになったら当たるのかぁ。」
「 …その時は、ぐーパンチかましたいかも。」
「 ははっ、杏菜のぐーパンチは痛いから悶えるだろ!! 」
音駒高校の選手が悶える様子を想像すると、笑いが止まらない。くすくすと二人で笑いあった。
「 でも、俺としては入ってほしい。正直な話、一緒にバレー部の仲間として欲しいんだ。」
「 大袈裟な、」
グッと唇を光太郎ちゃんの親指で止められた。
「 大袈裟じゃない、俺はお前が選択として捨てた" バレー部のマネージャー " を続けて欲しい。」
光太郎ちゃんは、ときどき大人の顔をする。見透かすような、重い一撃をかますのだ。