【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第1章 【仁王】ジョーカーのせいにして
「男なんだからバッといっちまえよ。情けねーの」
「バッとってどうやるんじゃ」
「そりゃお前、シュッとしてパッとしてむぎゅってな?」
「バッってのはどこいった」
風船ガムをプクゥっと膨らませて「知らねーよ」と頭の後ろで腕を組んで前を向き直した。つくづく無責任なヤツ。
告白さえあれなのだ。これ以上俺にどうバッとやればええって言うんじゃ。クラスの女子と戯れて笑う酒々井の笑顔は曇らせたくはない。けど触れたい。もっと心の深いところに忍び込みたい。臆病な右手をアイツに差し出せたら……。
……なんてのう。こんなことはいくらでも言える。大事なのは……。
「バッと行動しちまえよ」
「っ、お、おう……わかっとるぜよ」
踏み出せないまま2ヶ月、3ヶ月と時は過ぎてついには半年を迎えた。
夕暮れの教室、部活に行く前に酒々井と少し話をしてから柳生のお迎えで部活に行くのがルーティーンと化していた。なんなら少し柳生も混ざって話すくらいに妙にゆったりとした時間が流れている。幸い、部活にほんのり遅く行く理由が女だとは真田にはバレてはいないが、柳にはバレとるんだろう。やれやれ、試合で負けたらばらされそうで侮れん。
「んでそのときにな、柳生が……」
「へぇ、まさか彼がそんなことするなんてね。アンタたちホントに仲良いのね」
いつも通り、しごきの前の穏やかな時間。俺の話を聞き流しながら自分のやることを淡々とこなしていく指先が停止信号を受け、止まっている。何事かと顔をあげてみるとらしくもなく俺に注がれる熱い視線があった。
「見すぎ」
「あ……ごめん」
「まぁ別に悪い気はせんが」
悪い気どころかむず痒くてしかたがなかった。なんかイタズラでもされてんのか、頭に変なもんでも乗ってたかとあれこれ考えて徐々に上り詰めてくる熱に知らん顔しようとしていた。