• テキストサイズ

【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】

第1章 【仁王】ジョーカーのせいにして


何とか気にしないようにはしていたがやっぱりしばらくすると視線を感じ、これはまずいと俺が視線を反らした。でも戻すと感じるそれに耐えきれなくなって「……だから見すぎじゃて」と声をかけると「ああ……」とゆっくり意識を俺のおでこの方へ移した。

「なんか、つい。仁王って綺麗だなって思って」
「急にどうした。変なもんでも食ったのか。それとも俺に本当に魅入っとったのかのう」
「かもしれない」

椅子から転げ落ちそうになった。普段なら笑ってかわすはずのコイツがぽけっとしながらも素直に認めたのだ。明日には隕石でも降ってる来るのかもしれない。ここで素直に、そうですかそれはとても嬉しいですなんて言えないのが俺で、今度はこっちがじっとその読めない瞳を見透かそうと目を凝らす番だった。

「はあ? ……お前、疲れとるのか? 今すぐ帰るべきじゃて」

もはやその言葉への返事はなかった。注がれる注目は俺の唇であることなんて瞬時に分かった。それに気づいた瞬間、ゾクリと腰から背中にかけて何か這いずった。その衝動に導かれるようにして投げ出された左手を少しこちらの方に引き寄せて、小さく芽吹いた赤い蕾にそっと唇を重ねた。

一瞬のような、永遠のような甘さに酔いしれ、いったいどんな顔してるのだろうと少し唇を離して酒々井の様子を窺うと、ぶわっと花を散らしたように頬が赤く染まって唇をわなわなと震わせていた。

「な、にしてんの……」
「キス」
「いきなりとか……!! なに、やめてよ!!」
「なら先に言えばええんか? ――――キスしたい」
「ちょっ!! んんっ!!」

一度触れてしまえば心のタガなんてものは簡単に吹き飛んでいき、もっとを欲する。体の芯から溶け出しそうなくらいの溢れんばかりの愛しさを唇からコイツに伝わればいい。そんなことを考えながら2回目の口付けをせがむ。


/ 30ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp