【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第1章 【仁王】ジョーカーのせいにして
「またサボり? 」
「酒々井ッ!!」
背後から突然やってきた探し人を抱き締める勇気はなかった。遠くなろうとするその背中に俺は今度こそ手を伸ばし、驚いた左手を掴んだ。
「い、くな」
「は……?」
「先に行くな。いつまでも届かないのはもう……しんどい」
「仁王?」
「お前のその後ろ姿をずっと追っかけとった。付き合ってくれんか」
風が急速に冷えた。からりと乾燥してうまく唾が飲み込めない。ようやく掴んだ後ろ姿は振り向かない。どちらの心臓の音なのかわからない。この場を支配するのは早鐘だった。通り過ぎていく人が俺たちを見る。どう思われとるのかは知らない。ただ、2人と括られてるのかと思うと底知れない優越感に満たされた。
酒々井がゆっくりとこちらを振り返った。あっけらかんとした顔が俺を見つめて、俺の視線を離させない。時が止まったのかとも思えるようなくらい長い時間、互いに身動きをとらなかった。
「……うん、いいけど」
いつもなら「冗談きついよ」って困ったように笑うアイツが少し心地悪そうな表情で視線をそらしながら頷いた。それでも語調はいつも通りの酒々井でなんとなく安心した。きちんとした告白とも言えないお粗末な言葉だったが拒絶されなかったことにひどく安心した。
俺たちの関係が"恋人"という名前に変わってから3週間が過ぎようとしていた。
「は? まだ手繋いでねぇの? 大丈夫? お前男?」
「アイツに言え。単純にタイミングがわからん」
「タイミングってなぁお前……」
酒々井には付き合ってることは内緒でと言われていたが丸井にだけは話すことを了承してもらえた。ここしばらくの悩みであるスキンシップについて相談をしていた。人のくすぶる気持ちをよそに丸井はいちご牛乳を飲み干してから勢いよく俺の方を向き直った。