【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第1章 【仁王】ジョーカーのせいにして
「悩むくらいならさっさと告白してしまえばいいものを……。何を躊躇っているんですか。さらりと伝えてしまえばいいじゃないですか」
普段の俺なら間違いなくそうしていた。しかしそうしがたい抵抗感が生まれて、ただただ少し遠くにいる酒々井を見つめることしかできない。そんな身動きもとれない、説明しがたい恋心にどう対処すればいいのか……ほとほと手を焼いていた。
「ですが……好きを伝えるのが恥ずかしいのならとりあえず自分のものにしてしまえば勝ちではありませんか?」
「は……?」
この紳士の言うことが理解できない。そもそも紳士的な発言とも思えんが……。少し柳生の発言を自分の中で繰り返してみる。好きと伝えん限り自分のものになんてなるものか。……自分のものになんてならなくていい。ただ酒々井が他の誰かのものになるのが耐えられないだけだ。別に自分のものになんか……。
「お友達いないんですかー仁王くーん」
「仁王またネコのとこいったんだ? 何でわかるって肩に毛ェついてるけど」
「仁王」
「丸井それチョ~ダイ」
「ッ!!」
「……心の思うままに動いてみては? 仁王くん、君は考えすぎなのですよ」
「考えすぎ、のう……」
じんわりと胸に広がる毒に顔を歪ませると、柳生はフッと笑ってカチャリと眼鏡を外し、みるみるうちに俺へと変装し始めた。呆けてみていた俺に「早く行きんしゃい」と告げた。
「今ならまだ間に合いますよ。さぁ、行きなさい。真田くんは何とかして差し上げますから」
「お前は……冷たいんだかお人好しなんだかわからんヤツじゃき」
柳生の気遣いに心の中で感謝を述べて一心不乱に駆け出した。下駄箱を確認して靴がないことを確認した。途中まで一緒の帰り道、たまに隣を歩くこの道を駆け出す。まだ姿は見えない。辺りを見回すとうちの学校の制服を着た女はどこにも……。
「なーにしてんの」