【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第1章 【仁王】ジョーカーのせいにして
「……だから見すぎじゃて」
「ああ……。なんか、つい。仁王って綺麗だなって思って」
「急にどうした。変なもんでも食ったのか。それとも俺に本当に魅入っとったのかのう」
「かもしれない」
「はあ? ……お前、疲れとるのか? 今すぐ帰るべきじゃて」
ちいさく弧を描いて形を変える色気の籠った唇に目を奪われ、仁王の声がだんだん遠くなる。あー、やっぱ綺麗だな。だから付き合っちゃってるのかな。魅せられてんのかな。無意識のうちに頷いてたのかな。やっぱりよくわかんないや。
ボーッと目の前を見ていると淡い赤色をした唇がいなくなった。かわりに自らのそれに感じる温もり。おでこに触れるサラサラの銀髪。少し手前に引っ張られた腕。かかる吐息とまつ毛が触れるほどの超至近距離でゆっくりと開かれていくまぶた。吸い込まれそうなくらいに澄んだ瞳とぶつかった。
「な、にしてんの……」
「キス」
「いきなりとか……!! なに、やめてよ!!」
「なら先に言えばええんか? ――――キスしたい」
「ちょっ!! んんっ!!」
さっきよりも勢いよくクチビルがぶつかって、ボウッと火が点るように全身に熱が行き渡る。恥ずかしさでいっぱいでいっぱいで仕方がない。早く離れてほしいのにずっとこのままでいてほしい。矛盾した気持ちに揺さぶられているうちに、また唇が離れた。
仁王の熱のこもった視線が、上気した頬が、もう一度、と伝えている。ガッシリと掴まれた肩がもう一度持ち上げられる。僅かに震える彼の唇がまた私を求めているんだ。今度はしっかりと、固く瞳を閉じてその気持ちに応えてみようと思った。
「仁王くん、そろそろ部活へ……おや、お邪魔でしたか。失礼しました。真田くんは私がどうにかしておきましょう。ごゆっくり」