【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
「ホントに迎えに行けばよかったなぁ」
少し涙が引いてきたタイミングで、今日あったことを全部話した。キヨの腕に抱かれたまま、玄関から動きもせず。
私が話してる間、うんうん、と相槌を打って、時々私の目蓋や髪に口付けを落としながら、キヨはただただ話を聞いてくれた。朝までは顔も見たくなかったはずなのに、今はこの腕をすり抜けることなんて考えられない。
「明日からは行っていい? ダメって言われても聞かないけどね」
「うん、いいよ」
「ダメって言われたって俺は行……マジ?」
「マジマジ」
心がほぐれていくのか自分でもよくわかる。なんでキヨに意地張って冷たく接してたんだっけ。そんなのは簡単。情けないし酔ったら記憶飛ぶタイプだしすぐ女の子に鼻の下伸ばしちゃうけど、今も昔も変わらないからだ。
変わらなさすぎて、付き合ってた頃を思い出してしまうそうになる。そうしてまたキヨのことを好きになるのが怖かったんだ。だから些細なことに目くじらを立てて、イライラして……。
「キヨ、ありがと」
あの時たまたま飲み屋で再会してなかったら。酔い潰れてくれなかったら。いや、それよりも前から。あんたが私の幼馴染みであってくれたから。我ながら押し寄せた感情が重すぎるとは思うけど、今言わなきゃ後悔する気がしたから。
「いえいえ」
私の胸の内を知ってか知らずか、得意気に返すキヨがなんだか少しカッコよく見えた。