【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
帰り道、そこら辺を歩くサラリーマンみんなが怪物に見えてきて膝が笑い出す。今すぐにでも立ち止まってゆっくり休みたかったがそんな気持ちに反して足は先を急ぐ。
まだ新しいアパートの階段を一目散に駆け上がりポストに手を突っ込むが鍵が入っていない。それに気付いた途端、胃から不安が逆流してくる。もしかして誰かが鍵をとって家の中に入ったりは……? キヨの言う通り不用心だったのかもしれない。震えて力なんて入らない手でそっとドアノブを回す。ああ、開いてる……開いてる!! 思わずパッと手を離して尻もちをついた瞬間、ドアが開いた。
「お、おかえりなさーい」
「キ……キヨ……キヨっ!! うっ……ヒクッ、ヒクッ……」
「えっ!? ええっ!? ちょちょちょ、ゆかり……?」
もうなにが何だか訳がわからなくて爆発してしまった。キヨは私の体を何とかして引っ張り、玄関まで引きずったところで何も言わずに私をめいっぱい抱き締めてくれた。
何年経ってもかわらないそのあたたかい胸の中でただただ泣きじゃくった。