【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
※痴漢表現があります。苦手な方はご注意ください。
結局その日は何も手につかず、山代くんに大変ご迷惑をかけてしまった。
「いいですってば。またご飯奢ってくれればそれで」
人のいい笑顔を浮かべて100点満点の回答をされてしまってはますます立場がないというもの。今日は無理に多くの仕事をやろうとはせず、定時でキッチリあがって休む方が得策だろう。そそくさと退社し、満員キツキツの帰りの電車で揺られる。
「えっ……」
ふと感じるお尻の異変。ねっとりと、ゆっくりと私を辱しめようとする手に恐怖のあまり身体は硬直し、声は出なかった。いつか痴漢に遭った時には犯人の手を掴んで叫んでやるって決めてたのに、現実はシミュレーションとは遠くかけ離れている。ただただ怖い。
20分くらい撫で回された後、その痴漢は降りていったようで感触はなくなっていた。しかし不安は拭えず、目の前の席が空いた瞬間にへたり込むようにして腰かけた。
今日は本当に散々な日だ……!! もうやだ、本当にやだ。滲んでくる涙をカーディガンの裾でギュッと抑えて、ただただ最寄り駅に着くのを待っていた。