【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
円満にまとまったはずのスピーチに確認したいところがあるからと連絡を受けたのは1週間後だった。待ち合わせのお店に行くまでの道中、一体どこに問題があっただろうかとカラカラの脳みそをフルに動かしていた。
「あ、お疲れ~」
呑気な顔して手をひらひらさせるキヨを見た途端、急いで来たのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。そんな顔しないでよと席に座るよう促され、タイミングを見計らったかのように生ジョッキ2つが並べられた。
「あ、ごめんビールはちょっと……」
「お酒苦手? この間は飲んでたからてっきりいけるかなって思ってた。……あ、もしかしてまだ自分を押し殺すクセ治ってないんだ?」
「え?」
なんのことかと首を捻るとキヨは「昔からそうじゃーん!」と軽い説教を始めた。自分ですら気付いていなかったことをキヨは知っている。それがムカつくと同時になんだか嬉しく感じてしまう自分がいることに妙に悔しくなった。
「で、原稿の確認したい部分って?」
「え? 何の話?」
「何の話ってキヨがそう連絡してきたんじゃん」
「あー……。そうだったかそうだったか。やっぱ大丈夫、俺1人で直せそう」
それじゃあ徒労じゃないかと抗議するとご飯おごってあげるからとビールを一気に飲み干した。……まぁご馳走してくれるなら悪くないか。ここにいる建前をそんな風に立ててへらへらしてるその顔をメニュー越しに盗み見していた。