【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
飲み会の一週間後だった。後輩くんから、高田さんと入籍をする運びになったと連絡を受けたのは。
「……仲人、ねぇ」
「こりゃまた大層な役どころを預かったよね」
「そうねぇ。まさかあの場でキヨが言ったことが本当になるなんてね。恐れ入ったな」
仲人には当然のごとく私たちが選ばれることとなった。今日はその打ち合わせとして2人でちょっとした食事に来ている。この間は隣に座ってだったけど、久々に対面して座っている。こういうとき、普通なら懐かしさを覚えるものなんだろうけど私にはそういう感覚はなかった。
別人なのだ。私が知っていたはずのキヨとは。
スーツをぴしりと着こなし、少し爽やかながらも甘い香りを放ち、大人の色香を纏うこんな男、私には存じ上げないのだ。だから妙に緊張してしまい、まともに顔を見ることができない。
「ねぇ」
「えっ――――な、なに?」
唐突に投げ掛けられる声にゾクリと背が震える。脳天にまで響く質の良い声が耳を滑り抜けて身体中に広がって気がおかしくなる。あれ、もうこの歳で更年期? 嫌になるなぁ、合わせられず行き場を失った視線を彷徨わせながらそんなことを考えてみる。
「……元気だった?」
「へっ!?」
「お前も、お義母さんも。ほら、中学卒業してから全然連絡取らなかったからさ。どうしてたかなぁって」
「あ、ああ……」
変な声が出る。なに緊張してんのよ、私。相手はキヨだよ。