【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
「へぇ、高田さん受付嬢なんだ? 通りで可愛いわけですね」
「山代さんこそあの商社の総務課って……超エリートじゃないですかぁ。すごーい!」
どうやらお互いの連れ同士がいい雰囲気のようだ。キヨとまぁまぁ、好きにさせてやろうと半笑いで2人の様子を見ていた。
「酒々井さんってぇ、彼氏とかいないんですかぁ?」
えらい猫なで声でばしばしのつけまつげをしぱしぱ羽ばたかせてそんな話題を振ってきた。いたらこんなとこいねぇよ。グイッと一杯日本酒を呷ってから口を開こうとしたその時だった。きゅっと手と手が結ばれる。机の下でばれないように。そして、少し寂しそうな目で私を見つめる。
「できたの? オトコ」
一瞬固まってしまったけど、否定の意味と気を確かにしたくて首を思い切り横にブンブンと振り回す。繋いだ手の力と、キヨの口角が少しゆるんだ気がした。気を利かせてくれたキヨが、さぁさぁじゃんじゃん飲もう! 若いお2人さんも盛り上がっちゃおう! と生を追加注文した。
「ぶっちゃけ2人ってお似合いだよね。このまま結婚しちゃったりして」
少し酒に弱いんだろうか、頬をほのかに赤らめて、若干達者に回り損ねた舌で、キヨがそんなことを言い出した。その場が静まり返り、後輩陣2人は互いを見つめあった。
「こ……こら、さすがに早すぎるでしょう。出会ってまだ数時間だよ? 2人ともごめんね、コイツ酔っちゃったみたいでさ。気にしないで」
そんな風にその場を取り繕ってみたが異様な空気は未だ消え去らぬ。……あ、あれ。繋がれたその手を揺らしてみるが、キヨはにっこり笑っているだけだった。