【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第1章 【仁王】ジョーカーのせいにして
2回なんかじゃやっぱり足らずにもう一度を求めて酒々井の肩にを引き寄せた。今度はする前に反応をちゃんと見た。躊躇いがちにだが、確かに瞳を閉じて俺を受け入れるつもりでおってくれてる酒々井にそっと唇を寄せる。体に渦巻く熱をすべて震えるそれに乗せて。
「仁王くん、そろそろ部活へ……おや、お邪魔でしたか。失礼しました。真田くんは私がどうにかしておきましょう。ごゆっくり」
あまりにも完璧すぎるタイミングにお互い黙って見つめ合って固まる。心の中で盛大な溜め息をついてすっと肩から手を離した。ぶっきらぼうにラケットバッグを背負って「部活行く」と言うと酒々井は間抜けな声で「うん……」と溢した。教室を出てから一旦足を止め、振り返るようにして顔だけ教室に覗かせた。
「毎度毎度送ってやれんですまんのう」
それだけいって反応は見ずに踵を返した。無意識のうちにしていた鼻唄に乗せて軽く弾むと「ご機嫌上々のようで」と腕を組んで角で突っ立っている紳士がいた。思わず「うおっ」と素っ頓狂な声をあげたがすぐに並んで歩き出す。
「浮かれすぎですよ」
「ええんじゃええんじゃ。今日くらいは大目に見ろよ」
「何を言ってるんです? だからこそですよ。甘えるのはもうおしまいになさい」
「へーへー。つーかお前あれわざとじゃろ」
「いいえ?」
「絶対わざと」
「ええ。ああした方がかえって次回が盛り上がるかと」
「余計な世話焼くな」
「おや、紳士の粋な心遣いがわからないとは……」
コイツが俺をからかっとるのはわかっとる。メガネの奥で心底楽しそうに笑ってやがる。ぶつぶつと説教垂れながらコートまでの道のりを歩いていく。ふと差し出された左手拳。それに応えて右手拳をコツンと重ねた。
まぁ、感謝しとるぜよ、柳生(ジョーカー)。今度何かプレゼントでも買ってやろう。酒々井に付き合ってもらおう。そうしたらそのときは手を繋ごう。そんなことを考えて部室の扉を開けた。