第3章 3部(裏有)
「ヒデェ顔してんぞ」
家に帰り着くなり、カミナに風呂場へ放り込まれた。
べそをかいた顔を見られたのが恥ずかしかったし、我ながら本当に酷い顔をしていると思うので素直に浴室に引っ込んだ。
浴槽に湯を入れ、そのさざ波を呆けながら眺める。
ぼうっとした頭の中は、四年ぶりに部屋の中に居るカミナのことばかりだ。
(…そうだ)
次に会った時には自分の気持ちを伝えようと決めていたんだっけ。
何度もシミュレーションした言葉を胸中で繰り返してみた。
(いざとなると言えないなあ…)
それどころか、カミナに向かって怒鳴るという事をしでかしてしまい、ますます感情を覆ってしまう。
(カミナはちっとも変わらないし)
私の気持ちを知ってか知らずか、目の前に現われた大好きな人は、今度も楽しそうに笑っていた。
(…言ってしまったら、ひょっとしたらもう帰って来ないのかも)
そんな言い訳が浮かぶほど、胸の内を伝えられない私は、やはり相変わらずの意気地無しだ。
酷い顔を洗い、湯船に浸かって考え事をしていたら危うく溺れ掛けた。
「ちったぁマシな顔になったな」
湯気を上げて浴室から出てきた私の顔を見て、カミナが満足そうに頷くが。
「…ってか、年頃の娘がタオル一枚かよ」
ぎょっとしたように私の姿を見て、慌てて目を逸らした。
「着替え忘れたから…」
カミナに有無を言わさず放り込まれたからだが、目を逸らすカミナを珍しいなと思った。
「ったくよ…。…俺も風呂借りるからな」
「うん、どうぞ」
カミナを浴室に見送って、着替えを取りに行こうとする。
(…そう言えば)
箪笥の前ではたと止まった。
カミナは今回はどうして帰って来たのだろう。旅は終わったのだろうか。
(…終わって、これからはこの街に住むのかな)
またこの部屋でカミナと暮らせたら、どんなに幸せだろう。
久々のカミナは変わらなかった。身長も、態度も、髪型さえも。
(…変わらな過ぎる)
大人っぽくなったとは感じても、体は変わらない。
背は伸びない、年もとらない。
(気付いたらいつの間にか私の方が年上になってたんだ)
その事がどうにも私を切なくさせる。
私も年を重ね大人になったと思っていたけど、体ばかり大きくなったって、カミナの前ではこんなにも子供のままなのに。