第3章 3部(裏有)
「風呂あんがとさん…ってお前、まだタオル一枚かよ」
声を掛けられ振り向くと、浴室からカミナが出てきていた。
私はというと箪笥の前で立ち止まったままだった。
「考え事してて。カミナだってタオルだけじゃん」
「俺は男だからいいんだよ。お前は風邪引くぞ」
ほかほかと湯気を上げたカミナがごそごそと棚を漁って何かを探している。とっくに体が冷えている私を手招きした。
「ほれこっち来い」
手招きするカミナの手元を見ると、棚から探し出したのだろう。ドライヤーを構えていた。
「乾かしてやっから」
「…うん」
使い方を覚えていたのかとぼんやり考えながら、寝台に腰掛けているカミナに近付いた。
その前に大人しく座って膝を抱えると、すぐに熱風が私の髪を通る。
「カミナに髪乾かして貰うの久しぶりだね…」
「ああ、そうだな」
懐かしい感触に、六年前カミナに髪を乾かして貰った事が昨日のように思えた。
うっとりと目を瞑って、カミナの指が私の髪を梳くのを感じる。
ほんの少し、部屋がドライヤーの音と熱風で沈黙した。
「…。なあ、お前どうした?」
ドライヤーの轟音の中、頭を掻き混ぜられていると背中からカミナの声が聞こえた。
「…よくわかんない」
私は膝を抱え直した。感情がごちゃごちゃとして本当によく分からない。昼間カミナに再会してからずっとこうだ。
「わかんねェ、か。じゃあ今お前が一番考えている事を言ってみろよ。俺が一緒に考えてやらァ」
「……」
思いの外優しかった声に、また涙が出そうになる。
(…カミナはずっと優しいのに)
ドライヤーが終わっても私の頭を撫でてくれるカミナが、七年前と全く変わらなくて、優しくて、切ない。
「カミナ、あのね…」
「おう、なんだ?」
「私ばっかり大きくなるのが辛い」
「……」
私の言葉にカミナの手が止まった。
改めて膝を抱え、鼻先を隠す。すん、と鳴る私の鼻はきっと赤い。
「あのね…私ばっかり大きくなるのが辛い。私だけじゃない、シモンもキタンも…随分会ってないけどヨーコも。皆もうカミナより年上…そんなのって辛い」
「……」
カミナは黙ったままだが私は続けた。
「一番辛いのはカミナなのにね」
言いながら涙腺が緩んだ。声も震える。