第2章 2部
そうしてカミナは教えてくれた。カミナが地上で一番最初に見た景色の話を。シモンとヨーコと一緒に見た、昼と夜の間の空の色。
「朝焼けも夕陽も何度も見た。けどあの時の景色ほどこの目に焼きついている景色は無ェぜ」
「…その景色をもう一度見たいの?」
「いいや。俺はあの時の胸の高鳴りに敵う景色をもう一回見てェんだ。多分な」
「…そっか」
目を瞑り想像する。目の前に広がる昼と夜との間の煌き。碧い空と朱の空色。限界まで空に跳んだラガンから見下ろすその景色。隣に居て同じものに目を見張る仲間。
そっと混ぜてみる、微笑むカミナと私という空想。そこに居てみたかった。果てしなく、羨望した。
「…羨ましい。私も見たかったな、その景色。」
「ああ、綺麗だったぜ」
空想と同じくカミナが微笑んだ。
胸が痛くなる。この感情はもう何度目だろう。その場に居たかった。カミナと全部共有したかった。
微かに口が歪む。そんな私に気付かずカミナは自分の頬を掻いた。一瞬躊躇い、カミナがもごもごと口ごもる。珍しいカミナの口調に伏せていた目を上げた。何回か躊躇ってから、やっとカミナが口を開く。
「…なあ。俺は色んな場所を回ってみて思ったけどな」
カミナの見てきた世界。カミナが居なくなってしまってから急速に変わって行った世界。地下の限られた空間とは違い、どこまでも広がっていく世界。
「この広い世界を一人で見るのは…」
「何?」
どこか遠い目をしたカミナが気になり、その目を覗き込む。目が合ったカミナは酷く狼狽して黙り、頭を振った。
「…いや、何でも無ェ。それよりお前の話だ。お前は勉強ってやつをしてるって?」
「? ああうん。学校があって」
口ごもった言葉は結局分からなかった。カミナの消えた言葉尻が気になったが、促されてカミナとも乗った量産型グラパール、その訓練生だった話をする。
「その時にした勉強が面白くて、今はそっち」
「勉強ねえ…俺様には向いてねェなあ」
「そんな事無いかもよ?」
からかってみると、眉根を寄せて頭を掻くカミナが本気で嫌そうで、少し笑った。
そしていつものように、私の頭をぽんと叩く。
「…頑張れよ」
「…うん」
にかっとカミナが笑う。太陽のような彼の笑顔が久々で、眩しくて。カミナの笑顔の影に隠れた表情に、その時の私は気付けなかった。