第2章 2部
「こんちはッス」
ベンチ前で物思いに佇んでいた私に背中から誰かが声を掛けてきた。
「!?」
いきなりの声掛けに飛び上がる。脈絡無く耳に飛び込ん来た声が『彼』を咄嗟に思い出させ、私は勢い良く振り返った。
「…あ」
瞬間的に想像してしまったが、残念ながら後ろに居たのは同じ講義を聴講している顔見知りの男性だった。
「こんにちは。こんなとこで何してんの?」
「…こんにちは」
気安く声を掛けられ反射的に頭を下げた。顔見知りと言いつつも私は彼の名前を知らない。
「さん、でしょ。いつもギンブレーと一緒に居る」
「そうですけど…」
返事をすると「やっぱり!」と言いながら、この人懐こそうな笑顔の男性は私に近付いてきた。
この男性が声を掛けて来た理由が分からず、返事も出来ないまま私はぽかんと立ったままだ。
「俺の事知ってる? いつも講義一緒だよね」
「ええ。知ってます」
名前は知らないけれど顔は知っているので頷くと、男性はぱあっと顔を輝かせた。
「えっ、嬉しいなあ! さんっていつもギンブレーと一緒だからなかなか話し掛けられなくて」
「そうなんですか?」
私は人見知りをする訳ではないが、確かに講義中は前後も含めてギンブレーと一緒だ。他の人と話をした事は殆ど無い。
「ギンブレーに何回も言ったんだけど、あいつが『紹介はしません、自分で言って下さい』とか冷たくてさ」
確かにギンブレーの言いそうな事である。でも私はそれが正しいと思うので、目の前の男性の言う通りにはギンブレーが冷たいなんて思わない。友人を貶され少々不機嫌になる。
そんな私には気付かないのか、男性はそのままにこにこと言葉を続けていた。
「てな訳で、あいつから何か聞いてるかもしれないけど…」
「…?」
ああそう言えば、ギンブレーが何か言ってたっけ。美女がどうとか紹介がどうとか。
はて何だったっけ? と空中を見上げて考えていた私の前に、男性が更に近付く。いきなり顔を覗き込まれ狼狽した。
「な、なんですか?」
「さんって可愛いですよね! …俺と付き合ってくれませんか?」
「…………は?」
突然の言葉に、ぽかんと口を開けた私はかなりまぬけな姿だった。