第1章 1部
寝床に再び潜り込む前にカミナの顔を見る。
見開いたなら意志の強い紅の双眸は、瞼と蒼い前髪に隠れている。意外と長い睫毛は鼾の度に揺れていた。
幽霊だからなのだろうか。肌が青白い気がする。
心配になりその頬に手を当ててみた。良かった暖かい。
つるりとしたカミナの頬。17歳の青年の綺麗な頬に、幽霊も髭は伸びるのかな? と首を傾げた。
「うー…?」
「!!」
カミナが身動きをする。慌てて手を引っ込めるが起きる気配はせずまた鼾になる。ただの寝言のようだった。
「カミナ…」
再び頬に触れた。頬を撫でていた指をそっとカミナの唇に移動させる。
ちょっとだけかさついたカミナの唇。
私は身体を起こし、その唇にそっとキスをした。
(…ごめん、一回だけ許して。…良いよね?)
ねぇ、カミナ。私の初恋の人。
私の頭はまだ寝惚けているのかもしれない。
もしかしたら今この時が夢なのかもしれない。
一瞬だけ触れた唇。
内緒のキス。
「…おやすみ、カミナ」
私は再び寝床に入り、布団を頭までかぶって目を瞑った。
「へ――――…っくしょん!」
翌日、体調の戻った私はカミナにお礼を言うと、返事の代わりに盛大なくしゃみが返って来た。
「だ、大丈夫?」
「おう大丈夫だ! …多分な」
何発かくしゃみをして鼻を啜っている。首を傾げながら「おかしいな…漢は風邪なんざ引かねェ筈だが」とぶつぶつ言っている。
「ひょっとして…」
「あァ? なんだ」
「な、なんでもない!」
私の昨日の熱は本当に風邪で、カミナに移してしまったのかもしれない。…口移しで。
「!!」
その事に気付くと、一気に耳が赤くなるのが分かった。
「おい、お前まだ顔赤いぞ。やっぱり治ってないんじゃねェのか?」
「!? だだだだ大丈夫っ!! それよりカミナが風邪かも! 大変、幽霊も風邪引くんだね! 看病したげるから寝て!」
怪訝そうなカミナにどもりながら返事をしてカミナを私の寝床に放り込む。
問答無用で布団を掛けタオルを頭に乗せた。
「おい! 俺はまだ風邪かなんて…」
「いいから!」
夜中の内緒のキスは、一生黙っておこうと思った。