第1章 1部
「…ありがとう、シモン」
リーロン達オペレーターにも繋がる回線も切れているか確認して、ようやく普通の声量になる。
「悪ィな」
「まあしょうがないよ、事情なんて話せないし。それにカミナに謝られると何か妙な気分」
「なんだと」
笑ってから、背中を預けた彼を逆さに見上げた。
「…さ、ヴィラルと話そう」
「ヴィラル、ちょっと私と話をしてくれない?」
エンキドゥドゥに通信回線を合わせ、腹と心を括って恐る恐るヴィラルに話しかけてみた。
コックピットから顔を出していたヴィラルが驚いた顔をしてから、エンキドゥドゥの中に引っ込む。
彼と直接話すのは初めてで緊張したが、隣のカミナの真剣な顔を見ているとそんな事は言ってられなかった。
「…何で俺がお前のような女子供と」
エンキドゥと通信回線が繋がり内部に現れたヴィラルの顔が、ふんと鼻先で笑う。
カミナの視線を感じながらめげずにもう一度言った。
「私と話をして欲しいの。私は…カミナから貴方へ言葉を預かっているから」
「カミナだと…!?」
三白眼のヴィラルの目が大きく開かれる。瞳孔が開き気味な彼の瞳が驚いたように瞬かれた。隣でカミナも私の言葉に驚いている。
これは賭けだった。
大グレン団の皆と違い、敵であるヴィラルは私の話など歯牙にも掛けそうに無かった。面識すら怪しい私の話を聞いて貰うには少しでもカミナの名を出さないと無理だろう。
「…どういう事だ」
事実ヴィラルは不審そうながら私の話に乗ってきた。
「私はある事情でカミナから色んな人への声を預かる事が出来た。勿論信じるかは貴方次第だけれども、もし少しでも聞きたいと思ってくれたら回線はこのままで」
「……」
ヴィラルからは返答は無い。それが了承の言葉の代わりなんだと思い、カミナを振り返った。カミナが頷く。
「よう。あのケダモノ親父の時以来だな、ヴィラル」
親しい人に対するような態度の後は、懐かしい人に会った時のような態度をカミナはしている。
事実幾度か戦った敵とは言え、回数を重ねれば気安くなる。
カミナは黙ったままのヴィラルと私を交互に見て、ヴィラルに向かって口を開いた。
「いつまでも死んだ王様に執着してんのか?」
カミナが顎で私とヴィラルを促した。
「…『いつまでも死んだ王様に執着してんのか?』」
カミナの言葉を一句も漏らさず、ヴィラルに伝える。
