第1章 1部
「おうおうおうおう! 螺旋王とやらが居なくなった癖に、しぶとく生き残った獣人どもってのは手前等の事だな! この俺様がちぃっと留守にしてる間に随分好き勝手してくれてるじゃねェか」
カミナがぺきぺきと手を鳴らしながら、エンキドゥドゥや獣人の乗るガンメンに見栄を切る。
「聞けば手前等はシモン達の話も聞かずに暴れまわっているらしいな。なんだその大きい耳は飾りかァ? いいか、手前等は負けたんだ。俺達が命やプライドは取らねェのは分かってるだろう。さっさと白旗を揚げやがれ!」
(…ねえカミナ、聞こえて無いと思うんだけど)
「そこは気合で何とかする! 頼むぜ!」
(それは気合じゃなくて他人任せって言うの!)
私とカミナがごちゃごちゃ言い争っていると、稼動音と共にエンキドゥドゥのコックピットが開き獣人が顔を出した。
「…なんなんだ、そこの女。死ぬ前に言いたい事でもあるのか」
「ヴィラル!」
カミナが叫び、声の主に顔を向けた。
ヴィラル。それはカミナのライバルだった。
初対面でエンキの兜を強奪してからヴィラルはカミナを目の敵にしていた。その後も執拗にカミナを追い、チミルフがカミナに重傷を負わせた背景にはヴィラルが居た。
カミナの死後は、カミナが死んだとは知らずシモンやロシウ、ヨーコ等に度々煮え湯を飲ませられ、カミナの死を知ってからは女子供に手間取っていた事に衝撃を受けていた。
テッペリン陥落の後は、自ら反乱軍を名乗りテッペリン奪回の為に何回もこうして挑んで来ている。
そんなヴィラルにカミナが向き合った。勿論ヴィラルからカミナは見えないので私を直線上に置いての対面ではあったが。
「ようヴィラル」
カミナが片手を上げた。まるで久々に会った親しい人間に挨拶するかのように。
「?」
通信回線からシモンの心配そうな声が聞こえる。このままではカミナとの会話は勿論ヴィラルとの話し合いにも支障をきたすかもしれない。
「シモン、お願いがあるんだけど…これから通信回線を閉じさせて欲しいの」
「どういう事? 」
「ヴィラルと話をさせて欲しい。理由は言えないんだけど…」
「…俺達に聞かれたくない話?」
シモンが聡く聞き返して来た。ほんの少し押し黙る私に何かを感じたようで「分かった」という声の後に通信回線が切れた。