第1章 1部
「なァに考えてんだよ」
黙ってしまった私の横にカミナが立った。私の頭に手を置いてぐりぐりと掻き回す。少々乱暴な撫で方だが、この一日・二日ですっかり慣れてしまった。優しくて大きな手。
「ったく、お前が何考えてんかは知らねェけどよ」
言葉とは裏腹に、色々と考えてしまっている私を察したのだろう。頭に手を置いたままカミナの顔が横に来る。その真剣な顔が近くて心臓が跳ねた。
「お前がずっと何かに悩んでるみてェなのは分かってる。だがな、そんなモンはどっかに捨てちまえ。悩む時間があったら体動かしとけ。そんでぐっすり寝ちまえ」
「…乱暴な意見だね」
「良いんだよそれ位で。そんで昨日より明日に一歩進んでりゃァ」
お前の勝ちなんだよ! と親指で私の胸を差した。
「…うん」
指を差された胸が痛かった。
ダヤッカを追い掛けているキヨウが嬉しそうで、私も幸せな気分になるのは事実。レイテとマッケンが一足先に幸福を築いている事も堪らなく嬉しい。
だけど果たして私はそれが羨ましかったのだろうか。
憧れていた目の前の彼の時間が止まった時に、永遠に閉ざされた未来が惜しくなったのか。
それとも、友人と彼の未来をこの目で見なくて済んでほっとしたのか。
『カミナの死』という出来事にある意味安堵していたのではないか。
(…違う)
カミナの死に納得なんて出来ない。彼が死んでしまって周りの皆の世界も変わってしまった。
そうして皆が少しずつ前に進んで行く中で、私はカミナの『死』に対してで無く、自分の不憫さにただ蹲って心を閉じていただけだ。
カミナに抱きついて泣きたかったけど、それは違う。
縋って泣けばいいのかもしれない。私は可哀想と思いながら。そうしたらカミナは優しく私の髪を撫でてくれるだろう。
ああやはり、それは違った。
確かに私はカミナが好きだ。でも彼に優しくして欲しいじゃない。守って欲しいんじゃない。
彼を追いかけたくてグレン団に入って、大グレン団を名乗って、彼に並びたかったのだ。