第3章 3部(裏有)
涙を拭い、私はカミナに向き直った。
「ねえカミナ。私まだここがどこだか聞いていない」
「俺も詳しくはよく分からねェって言っただろ」
「でも…さっきシモンが私を連れて来たって」
「ああ。確かにそうだ」
カミナが私の髪に触れる。髪束を一房すくい、そっと口付けた。
「ここは多元宇宙だ」
「多元宇宙…」
「ああ。お前と離れる時言っただろ? 俺は俺のやる事ってのが、やっと分かったんだ」
そしてカミナはゆっくりと語った。
シモン達の敵、アンチスパイラルの罠。それが多元宇宙。
シモンが皆が望んだ世界を見せ、そうしてゆっくりと死に向かわせる。
「その多元宇宙からシモン達を連れ出す。それが俺のやるべき事だったんだよ」
思えば最初からそうだったのかもな、とカミナが小さく笑った。
「……」
声が出ない私の頭を優しく撫で、再び抱き寄せた。
「おそらく俺は幽霊なんかじゃねェ、勿論生き返った訳でもねェ」
「…幽霊じゃない?」
「ああ。でも俺が生きていた頃の俺自身であるかどうかもよく分からねェ」
「そんな事…」
「そんな事あるんだよ」
カミナがゆっくりと頭を振る。
「記憶はあるが、俺は七年前にお前と会った俺じゃないのかもしれねェ。この多元宇宙に作り出されたただの残りカスなのかもな」
「カミナはカミナだよ!」
たまらず掠れた声を張り上げた。
「そんな事無いから! 喩えどんな姿でもどこに居てもカミナだよ!」
私の大好きなカミナだよ、と小さくなる声で続けた。
「…ありがとな」
抱き締められた手で背中をぽんぽんと叩かれた。
「お前には救われてばっかだ」
「…そんな事無い。私の方が救われてる」
カミナの胸に顔を埋めながら呟いた。
「じゃあどっちもだな。俺は迷子みたいなモンだった。そんな俺をお前が導いてくれたんだよ」
「……」
カミナが私の顔を覗き込み、そっと口付けた。
「でももうやるべき事をやっちまったからな。俺はもうに会えないんだと思っていた」
「…カミナ」
続くカミナの言葉の予感に体が震える。
「でも会えた。シモンの奴に感謝だな」
そう言ってカミナは握っていたコアドリルに通してあった紐で、私の髪を纏めた。
そして愛おしそうに髪を撫で、再度口付けた。