第3章 3部(裏有)
「」
皆が去り顔を上げると、何故かキタンが残っている。
「…キタン?」
訝しげに首を傾げた私と目線を合わせたまま扉を閉め、キタンが口を開けた。
「なあ。お前何かあったのか?」
「…!」
なんと言っていいか分からない。否定も肯定も出来ずただうな垂れた。
しばし沈黙。キタンの視線を感じたが、ただ黙るしかない自分に嫌気が差す。
キタンも押し黙っていた。
「おい!?」
だが慌てたような声で私に声を掛けた。
「の首ンとこ、どした? 怪我してんじゃねぇか!?」
「えっ」
全身に掠り傷はあったが首に怪我をした覚えはない。
慌てて備え付けの鏡で確認するが、見つけたその赤い痕に思わず赤面した。
「…!!」
慌てたキタンに首をまじまじ見られ、さらに赤くなる。
「これはっ…」
「なんだよ、怪我してんならちゃんと診て貰え」
「違うの、これは怪我じゃなくて」
「怪我じゃねえ? じゃあ何だ? ………あ」
しどろもどろになる私にぽかんとした後、ようやく理解したのかキタンが私よりもっと赤くなった。
これはカミナが付けた痕。
愛を囁かれ、首筋を強く吸われた痕。こんなに強く目立つ痕になっているとは思わなかった。
この痕は、カミナがそこに存在していた跡、だ。
「あああ!? ちょっ! 悪ィ!! そんなつもりじゃ…」
「…うん、分かってる。心配してくれてありがとう」
「ああ…クッソ、そういう事かよ…」
頬が赤いまま腕を組み、照れたようにかたかたと足を鳴らした。
「しっかし、にもそういう奴がなぁ…」
しみじみと頷くキタンに、口端が持ち上がる。
未だ耳が赤いが、うんうん頷きながら、それでも嬉しそうに私を見るキタン。
そんなキタンを見ていたら、私も何だか嬉しくなり、目頭が熱くなる。
「…う」
口を結ぶが、隙間から呻き声が漏れた。
「…?」
私の様子に気付いたのかキタンはぎょっとしたように目を見開く。
「ど、どうした!?」
「うぐ…」
おろおろとしながら私に向かって手を伸ばそうとしているキタンを見ていたら、もう我慢が出来なかった。
「うぐ…う…っ」
噛み殺した声で、大粒の涙が頬を流れる。
「…?」