第3章 3部(裏有)
何度目かの情事に、カミナが満足したのは何時頃だったのだろうか。
帰宅したのがそれほど遅くない時間とはいえ、とっくに日は沈み部屋の明かりは煌々と室内を灯す。
深夜というには随分早い。しかし倦怠感は半端無かった。
「腹減ったな」
「そうだね。ご飯食べようか」
空腹で死にそうな顔をしているカミナと簡単に食事を済ませる事にした。
食事の支度の最中に、カミナが私に何度もキスをしてくれたのが、とても嬉しい。
六年前と変わらず、私の作った食事を旨い旨いと頬張ってくれる。
今までと違うのは、食べ終わってから「旨かった」と言って私の頬に口付ける事。
「キスより先ももっとしてェんだけどな」
悪戯っぽく片目を瞑り、私を赤面させる。
夢じゃないかと幾度も思った。
「…カミナ、好き」
「ああ俺もだ。好きだぜ、」
――カミナが好き。
何度も言うよ。今まで言えなかった分も全部。
カミナが、大好き。
多分この言葉は、幾度言っても一生言い足りないんだと思う。
「うわ!」
食べ終わるのに合わせたかのように、唐突に聞こえた電子音に飛び上がった。
「なんだこの音」
カミナもきょろきょろと見回している。
「あ。電話」
四年前、カミナが居た時にはまだ無かったガンフォンだ。
「でんわ?」
聞き慣れない単語にカミナが首を傾げる。
「遠い所に居る人とそのまま会話出来る機械だよ」
キヤルの発明品、と告げるとカミナが仰天した。
目を剥いたままのカミナに笑い、ガンフォンの通話ボタンを押した。
「…なんか良い事あったのか?」
ガンフォンの通話ボタンを切り会話を終了させた私に、伸びをしていたカミナがこちらを向いて尋ねた。
相手からの声はカミナには聞こえない。けど会話の相手と交わした私の言葉はカミナにも聞こえる。
私の嬉しそうな声音が分かったのだろう。
「うん! キヨウとダヤッカの赤ちゃんが生まれたんだって!」
「へえ!」
嬉しそうに叫ぶ私にカミナも大きな声で感嘆した。
「キヤルが連絡くれたの。皆行くみたいだし私達も行こう!」
「ああ!」
ガンフォンを握ったまま飛び跳ねる私。カミナも私の手を取りくるくる回ってくれる。
友人達の紡いだ新しい命の誕生に心が躍った。