第3章 3部(裏有)
志半ばで倒れて、皆を置いて遠くへ行ってしまったあなたが一番辛い筈なのに。
私はまた、自分ばかりが辛いと感じている。
「…んな事考えてたのかよ」
カミナが背後で大きく溜息を吐く音が聞こえた。
「…ごめん」
「謝んな。それにな、辛いのは俺じゃねェよ」
溜息の後、カミナがぽつりと呟く。
じゃあと言いかけると、ぐいと引き寄せられた。
「……!」
あっと思ったらカミナに後ろから抱かれていた。カミナの顎が私の頭に載る。
「…置いてけぼりが一番辛ェんだ」
「それって…」
言い掛けたが慌てて口を噤む。
以前シモンとヨーコから聞いた。カミナの父ジョーは幼いカミナを置いて行ってしまった。
それがどれだけ辛かったのかは分からない、が。
「俺はシモンを置いて行った。ヨーコの事も、ロンもロシウもキタンの野郎も大グレン団の全部を置いて行っちまった。俺はやれる事をやったつもりだが、その結果死んじまった。後悔なんざしてねェが、かっこ悪ィよな」
「そんな…」
反論しかけた私にカミナが言葉を被せる
「いいから黙って聞け。死んじまった俺は不思議な事にぐちゃぐちゃだけど意識はあった。そん中で聞こえたのはシモンの声だったよ」
カミナの声が私の頭の上で静かに流れる。
「あいつは言ったんだ。『俺も俺らしく生きる』ってな。今思えばあのお姫さんに言っていた言葉だったんだけどな。それを聞いて俺は思ったよ」
螺旋王ロージェノムを斃した頃か。確かにシモンはそう言葉にしていた。
「俺も俺らしく生きる。死んじまって格好悪かろうが、俺は俺だ、カミナ様だ」
カミナの声が強くなると同時に、抱き寄せられる力も強くなった。
「そうしたらな、あの場所に居たんだ」
「あの場所って」
「俺の墓だ」
カミナが笑った。
どこも痛く無い、どこも千切れて無くなってもいない。
呆然としていたら見知った顔ぶれが近付いて来た。シモンやヨーコ、リーロン達だ。おおいと声を掛けたが、全員が俺を素通りしていく。口々に俺の死を悼み花を添えて立ち去る。
「親父に置いて行かれた俺が皆を置いて行っちまって。今度は俺がまた置いてけぼりだ」
カミナがまた笑う。
たまらず私はカミナの腕から抜け出した。振り返り、カミナの頭を抱える様に抱きしめる。