第3章 いざ煌帝国へ
会話はそう長くは続かなかった。正直言って気まずい…。
何故か目の前の紅炎様にはずっとジロジロ見られてるし、その所為で余計に緊張するし。
どうにか気を紛らわせようと足元で構って欲しそうなチャーシャの喉元を指先で撫でる。コロコロと喉を鳴らす子虎の顔にこれ程安心感を覚えたのは初めてだ。
この馬車はいつ頃到着するのだろうか、と考えていれば先に沈黙を破ったのは紅炎様だった。
「その虎はお前が飼っているのか。」
「はい、1年程前に他国から来た商人に譲り頂いた虎です。名はチャーシャ、雄なんですよ。」
ほぉと興味深そうに紅炎様がチャーシャを覗き込んだ途端、警戒し始めたのか毛を逆立て威嚇し始めてしまった。
「こら、チャーシャ。ダメ。このお方は紅炎様といって、私がこれからお世話になるお方なんだから。」
急いで威嚇するチャーシャを優しく抱きかかえると言い聞かせるが、やはり紅炎様の事が気になるようだ。
「ごめんなさい、紅炎様。この子はとても人見知りなんです。」
「いいや、構わん。この虎だって急に知らぬ男、それもお前を連れ去った男に近寄られて警戒したのだろう。」
意外と心優しいと思ってしまったのは心の内にしまっておく。紅炎様なんて、虎の一匹や二匹引き連れてそうな程の風格なのに。少し驚いた顔をしてしまったが、それを誤魔化すように笑顔に変われば一言礼を告げた。
私が眠っていた時間が余りに長かったのか、窓から外を見ると既に真っ暗だった。
「城にはもう時期着く。」
自分の考えていた事を察してくれたのか、紅炎様が教えてくれると本当にその様で煌の兵があと10分ほどで到着すると報告に来てくれた。
煌帝国に来るのは初めてだ。一体どんな国なのか、不安で押し潰されそうなのは変わりないが少しの好奇心も生まれていた。