第7章 花嫁修行
トントントン
「失礼いたします!」
突然のノック音と共に扉が開かれる。
頭が半分夢の中の状態で誰が来たのかなんてすぐに把握できなかったが、寝起きなど関係なくその声と共にずらずらと複数人の侍女たちが部屋へと入ってきた。
「おはよう御座います。桜姫。今日からお仕えさせていただく者で御座います。本日も予定が詰まっております故、早速身支度をお手伝いさせていただきます。」
ぼーとまだぼんやりとした頭で彼女達を見ていたが、余程時間が無いのか、ベッドを囲まれるとあれよあれよと風呂に入れられ、身体を清めては、可憐な着物に身を包み、化粧を施される。
自分でやると何度か口を挟もうとしたが、それすらも許してくれないのか、「じっとしていて下さい」と逆に怒られてしまった。
起きてからほんの1時間で寝起きとはまるで別人のようだった。
「紅炎様からこちらを預かっております。」
髪を結われている間もそんな事をぼんやりと考えていると、侍女から一つの簪を手渡される。
「綺麗…。ありがとうございます。」
その金の簪には紅い宝石が付いていた。自分には勿体ないくらいだ。直接は渡さずとも、こうして物を下さるのは彼なりに気を遣っているのだろうか。
その簪を髪に飾ってもらう事にした。宝石が太陽に当たる度キラキラと輝くのがとても綺麗だった。あとで礼を言わなければ。
だが、朝イチに彼女達が言っていたように本当に予定が過密に詰められているようで、朝食を取った後、第一皇子の妻として相応しくなるようにと、知識、教養、マナー、芸事など、代わる代わるに講師がやってきた。
ある程度の教養は自国でも学んできたが、煌帝国ではまだまだ学ぶことはあるらしい。
「疲れた…。」
怒涛の1日に日が暮れる頃には疲れ切ってしまい、机に突っ伏せる。
これでは紅炎に会えるのはいつになるかと途方に暮れてしまう。会いたいと言えば取り計らってくれるだろうが、何せ彼も彼で随分と多忙のようだ。邪魔しては悪い。
そのとき、コンコンとノックと共に見知った声が聞こえてきた。
「桜ちゃん、いるぅ?」
「ちょっと待ってね。」
急いで扉へと向かい、開けるとそこには予想通り、紅玉ともう一人黒髪の女の人が立っていた。名前は確か、白瑛様と言ったか。