第3章 いざ煌帝国へ
ガタッ…ガタッ…ガタッ……
規則正しく地面から響くような音が耳に届く。
何処だ…。
長い間気を失っていたみたいだ。
父はどうなっただろうか、国は…国民のみんなは…。城の者たちは…。再び不安が頭を渦巻いたまま、ゆっくりと目を覚ますと見た事の無い部屋。部屋というよりは馬車の中だろうか。視界がぼやけ、まだ完全には覚醒していない頭で必死に今の状況を把握しようとする。どうやら簡易的な寝具の様な上で寝かされていたみたいだ。
「起きたか。」
低い男の声が聞こえたかと思えば、視界には赤い布地が入る。ゆっくりと上を見上げると、意識が途絶える前、最後に見た男の姿が目に写る。
どうやら、自分は意識を無くした儘この馬車に乗せられ何処かへ連れて行かれているみたいだ。行き先は間違いなく、煌帝国だろう。
朝から何も飲んでいない為か、喉はカラカラで乾燥した唇をゆっくり動かそうとした途端腹の上に何か重たいが温かい物が乗っている感触がする。
「ニャー」
その鳴き声にハッと目を開くと視界いっぱいに見知った白い子虎が入ってきた。
「チャーシャ、無事だったのね。」
不安だった心は束の間の安堵を得る。逃げぬ様にか首は鎖に繋がれているがその様子は元気そうだ。ぺろぺろと小さくザラザラと舌で私の頬を舐める。
「ふふっ、擽ったいって…!」
ここに来て初めて笑顔が溢れた。だが、目の前のこの男を放置している事に気づけば少し気まずい目で彼を見つめたが、先に口をひらいたのは彼だった。
「お前を連れて行こうとした時に部屋の中から飛び出して来たんだ。どうしても離れようとしないから共にに連れて来た。白い虎は煌では吉兆の徴とされているからな。」
「ありがとう…ございます。あの貴方は…。」
ずっと気になっていた。偉い人だという事は分かるのだが、肝心の名前も分からない。これから煌帝国の皇女として過ごすならば名を知らなければ不便だろう。
「煌帝国第1皇子、練紅炎だ。名くらいは聞いたことあるだろう。」