第2章 物語の始まり
従者の顔が蒼ざめていくのが分かる。戸惑う私を急かすように握り締められていた手首の感触は徐々に無くなり、従者はその場で目の前の男に向かって跪き頭を深々と下げる。
この男がこの国を攻め、圧倒的な武力を示した者なのだろう。一見しただけでも分かるこの風格に思わず見惚れてしまいそうになる。だが、男の問いかけに答えなければと腹を括れば、床に片膝をつき身体の前で両手を組み頭を下げる。
「はい、私がこの国の第1王女である楊桜で御座います」
ドクドクと心臓が五月蝿く鳴り響く、今からこの男に殺されるかもしれないのだ。成す術無く、国民の為切り捨てられるのだろうか。少しでも国民が今後も安全に暮らしていけるように、彼の癪に触れないようにこれでもかと言うほど深々と頭を下げる。
此処まで来ればもう煮るなり焼くなり好きにしてくれ。これで国民が幸せになるのであれば私の命など安いものだと心に決心をした瞬間私の予想とは180度違った言葉が返ってきた。
「頭を上げろ、楊桜。今日からお前は煌帝国の皇女として此方が引き取る事になった。」
「え……?」
想像を反する答えに勢いよく顔を上げては思わず間抜けな声が漏れる。驚き目を見開いた儘、目の前の男のギラギラとした目を見つめ返せば本気なのだろうという事が直ぐに分かった。
私が煌帝国の皇女になるのか…?
衝撃的な出来事が次々と舞い込み自分の頭は追いつかない。
そんな私に目の前の男が急かすように言葉を言い放つ。
「返事はどうした」
「はい…!」
余りの威圧的なその態度に反射的に返事をしてしまった。。
これからどうなるのか、不安は一向に高まるばかりで再び頭を下げることしか出来なかった。
「どうぞ、宜しくお願い致します…」
「いい返事だ」
男が満足気に微笑んだと同時に、緊張の糸が切れたのか、私の意識はプツンと途切れてしまった。