第5章 初めての朝
彼等の前で腰を屈めて顔の前で両手を組み挨拶する。
「へぇ〜、あの隣国のね。桜って言うんだぁ。よろしく〜」
「そんなに固く無くても良いわよぉ。宜しくね、桜ちゃん。」
間延びした二人の声に安堵した様に頬を緩めれば頭をあげると、少し意外そうな顔をした紅覇様と目が合った。じろじろと値踏みされる様に見つめされると女性の様に整ったその綺麗な顔に思わず見惚れてしまいそうになる。
「で、なんでそんなとこのお姫様が鍛錬場に興味あるわけ?桜は闘えるの?」
確かに、そうだよね。お姫様って普通はずっと部屋の中に篭ってたりだし…。紅玉様は私と何か同じ様な気がするけど…。
「はい、私はずっと剣闘を母国でしておりましたので多少はお相手出来るかと…」
自分で言うのは少し照れくさいが、これでも刀を振るのは自信がある。
「じゃあさ、俺と勝負してよ。勝ったら桜の事、認めてあげてもいーよ?」
久しぶりの勝負に思わず目が輝く。突然の紅覇様との勝負に緊張はするが、勿論受けて立つつもりだ。ちらりと紅炎様を覗くと勝手にしろとでも言うようであった。
「ぜひ、お相手お願い致します!」
「では、私が審判をさせて頂くわ。」
紅玉様が審判を務めてくれるらしい。チャーシャを地面に置いて鍛錬場の真ん中に向かうと、並べてある少し小振りの剣を手に取る。
この位の大きさなら十分振るえるだろう。
「言っとくけど、俺は手加減なんてしないからね?全力で掛かってきてよ?」
「勿論です!私も本気で行きます。」
紅覇様の身体と同じくらい大きい刀に少し驚いたが、動きを分析できれば問題無い。紅炎様は少し遠くで私たちの様子を眺めていた。
剣を構えた両者の間に静寂と緊張感が走る。
「…………始めっ!!」
紅玉様の一声でお互いは勢いよく飛び出した。