第1章 私の進む道
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「そうだったんだな…気を使わせてたのか…」
『そういうつもりじゃないんだけどね…悩んでる時に、そばにいてあげられなくて、ごめんね』
「菜緒が謝ることじゃないだろう?」
少しの昔話は、彼らを複雑な顔にさせてしまっていた。
だけど、隠すこともない。そう判断して、全てを打ち明けた。悪いことばかりではない、自分が夢に向かって歩いてることも、そして、アイドルのことも。
「でも、驚きました。菜緒姉さんは、歌やダンスをしているところを見たことがなかったので…」
「そうだな、お前いつもカラオケ言ったって歌わなかったし…」
『…だって自分で上手いとは思ってないし、ストレス発散なら他に方法があったから…』
友達とカラオケに誘われても、行く気も起きなくて。
次第に歌ったりというのを避けていると周りから思われていたのは懐かしい。
大学の友達から、バンドの助っ人に呼ばれた時、凄く申し訳なさそうにしていたのをよく覚えている。
「…やるのか?」
『やるしかないよ。決めたことだから』
「…オーディション、明日ですね」
そう、オーディションを一応させてほしいと、アイドリッシュセブンのマネージャーの小鳥遊紡さんからそう言われた。
そこにはアイドリッシュセブンたちも一緒に選考させてほしいとお願いもされた。
「楽しみだなー!菜緒の歌とダンス!」
『ありがと。でも本当に、そんな上手くないから』
「楽しみにしておきます」
そろそろ帰ると一織たちが言ったので、玄関まで見送る。
「じゃあ、また明日な!」
『うん、…三月』
「…?なんだ?」
『…なんでもない。また明日ね』
まだ、何も言わない方がいいか。
いや、一生閉じ込めておかなきゃ行けない気持ちだ。
彼はもう、私の知ってる和泉三月じゃない。
もう、違う。
『…やっぱ初恋は、実らないんだな』
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