第1章 私の進む道
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「では、菜緒さんのオーディションを始めます!」
翌日。
アイドリッシュセブンの7人と紡さん、大神さんが席にいるここは、ただのレッスン室。
…無駄に人が多いから、緊張する…。
「普段通りでいいので、得意な歌などあれば!」
『…そんな投げやりなんですか…?』
「菜緒さん、こないだライブでやっていた曲、歌ってもらえないかな…?」
『…分かりました』
あの時、大神さんと小鳥遊社長から声をかけられるきっかけになった曲。
今流行りの歌手が歌ったドラマの主題歌。
大切な人が、自分にとって光であったと、そういう歌。
「…凄い…」
「そうでしょう。彼女には、才能があります。悲痛な気持ち、歌に篭もった人の気持ち。それを伝える才能があります」
「すげぇな。俺達には俺達の、それぞれの役割を果たすだけで精一杯なのに…」
「俺には…歌えないです。こんなに、悲しく…」
私の精一杯の気持ち。
私の精一杯の伝え方。
それは私にとって大切で、何にも変えられない、唯一の方法。大好きな、彼のために。
「すげえな…」
「…兄さ…?!」
「なぁ、一織。あいつは…どこまでも俺を置いていっちまう…。知らない間に、俺の知らないあいつがいたんだ…なんでだろうな…」
「当たり前です、菜緒姉さんも1人の人間で、兄さんもそうです」
「ちがう…ちがうんだよ…一織…」
あぁ、彼が私を見てる。見てくれている。
そして…
「あいつの歌が…胸が痛いんだ…」
私の歌で、泣いてくれている…。
こんなに幸せなことがあるのだろうか。
私だって…彼らには、負けたくない。
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