第1章 私の進む道
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「そうだったんだね、君が三月くんや一織くんの幼なじみだったんだ」
あれよあれよという間に連れてこられた、もう何度目かもわからない小鳥遊事務所。
社長室に通されて、大神さんと三月がいろいろと説明をしたのを「うんうん」と聞いていた社長がそう呟く。
「どうだい?まだやる気にはならないかな?」
『そうですね…考えたこともなかったことですし』
「でも君の実力は、すごいと思う。三月くんたちも知らないことだ、そうだろう?」
「え?そうなのか…?」
確かに、三月や一織が歌って踊るところは見ても、私からは絶対にしなかった。
ライブのお手伝いだって、本当に、ボーカルの子が当日集合時間に来ず、その後連絡来たと思ったら風邪を引いてしまって動けないとのことだったらしく、その助っ人にと呼び出されたのが始まりだった。
『確かに私はほとんど歌わないし踊らないですけど…たまたまですよ。私は平々凡々です』
「君は平々凡々じゃないよ。だから、スカウトしているんだけどね…」
「菜緒、やってみよーぜ?俺らもついてっからさ?」
…まただ。三月に言われてしまうと、どうしても断りづらい。惚れた弱み…?どうしても…だめだ…
『…はぁ。分かりました。やってみますよ』
「本当かい!よかった!じゃあさっそく…」
なんて言いながら大神さんは鼻歌を歌いながら社長室を出ていった。…え、なんなんだ…?
「大神くんはね、君の歌声がすごく気に入ってたんだ。早く入ってくれないかなぁって、すごく気にしていたんだよ」
『そうだったんですか…』
「菜緒、よろしくな!」
ニコニコ笑顔を向けて、また私の頭を撫でてくれる。
あぁ、昔のまま。なんでこんなにも好きなんだろう…
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