第3章 バーボン
コンビニの方に歩き出すと、彼も隣について歩いてくる。
たまたま方向が同じなのかそれとも、さよならを言わずに歩き出したのが悪かったのか。
……ちょっとめんどうだな。
「こっちに用事ですか?」
「ええ、まあ。貴女はどちらへ?暗い時間帯に女性が一人で出かけるなんてそれこそ物騒ですよ」
「ただのコンビニです」
「偶然ですね、僕もコンビニに用があるんです」
「………。へぇー…」
さすがにこれは怪しい偶然。
本当にコンビニに用あるの?この人。
なんて言うか、この人の顔から表情が読み取りにくいんだよね。それにとっても嘘くさい。
根拠はないし、めちゃくちゃ私の主観だけど。
「本当に偶然?ストーカーじゃないですよね」
「クスッ……、本人に言うんですね」
「何だか貴方、怪しい感じがしますから」
もし私の家を知ってたとしたら、今日ポアロに来たのも実は偶然じゃなかったりして。
あの広い店内でわざわざ隣に来たのも頷ける。
まあ、だとしても顔がいいから別に構わないんだけどね。死ぬ前に一回ストーカーとセックスするってのも案外面白いかもしれないし。
この人なら全然アリだ。
実は組織の人間以外ともたまにお互いの欲を満たすためだけにセックスすることがある。
死と程遠い所にいる奴ばかりなせいか、あまり本能的じゃなくて満たされることは無いけど。
まあ一人でするよりはまだマシってやつだ。
所謂ワンナイトラブみたいな。
「本当に偶然ですよ、最近の散歩コースなんです。コンビニに行くのは…嘘ですが」
「やっぱり」
「見かけた以上、一人で夜道を歩かせる訳にはいきませんよ。護衛とでも思ってください」
そういう解釈があったか……。
「ごめんなさい、本当にストーカーかと思っちゃった」
構いませんよ、と優しく言うと彼はまた笑顔を見せる。
非常識だとかストーカーだとか失礼な勘違いをしてばかりだ。しかも本当はどちらも親切心だったわけだし。
なんだ、この人本当にただの親切なイケメンってこと…?