第3章 バーボン
リビングにはボトルの並ぶ棚がある。
その中で唯一複数本あるのが、ウイスキーのライだ。味が好きって言うよりも……コードネームが「ライ」だった男を意識して飲んでるって言う方が当たってる。
久しぶりにライ以外のウイスキーを飲んでみようって気になったのもたぶん、そういう感じでくだらない理由だ。
本当、馬鹿げてる。
ガラス張りの棚を開けて、確か奥の方に追いやっておいたバーボンがなかったか探す。
あ……あった。
出てきたバーボンのボトルは、もうほとんど残ってない状態だった。
……買いに行くか。コンビニ。
クローゼットから適当に上着を取り出して、さっき出かけた時の鞄のまま家を出る。
コンビニ行くだけで車に乗ったらさすがに不健康かな。
飲むものも酒なわけだし……。
愛車の前まで歩いていって、鍵は家の中にある事を思い出して徒歩決定。無駄な時間……。
歩けって神様からのお達しが来てるのかこれは。
ため息を吐き出し、仕方なく歩き出す。
門を出て左右の報告確認をした時に、思わぬ人影に出くわした。
「あ、ポアロの……」
「これは偶然ですね」
眼鏡姿にセーター。夕方見かけた姿のまま、あの男が目の前に立っている。
一日に二度も会うなんて確かに偶然。
家を出た瞬間に会うなんてこのご時世に宜しくないかと思うけど、イケメンは目の保養になるし大目に見ておこう。偶然なわけだし。
「まさかこの豪邸に住んでいらっしゃるんですか?」
「まあ……。でも女性の家を覚えるなんて物騒なんで、是非忘れてください」
「努力します」
細い目を開けることなく、彼は物静かな微笑みを見せた。
狐みたいな怪しい雰囲気の男だな。顔は悪くないけれど。