第5章 難航
抵抗を特に見せずに車から降りる。
組織の人間への対応をどうすればいいかまだわからない。
帰るよりも、ここで夜の間じっくり考えた方がいいかもしれない……。
「もし私のことを捕まえるようなことがあれば……」
「そういうのは要りません。心配されなくても、降谷さんのことは自分の方がよく知っていますから」
バーボンが自ら信頼して私にここに運ばせたことや、彼を迎えに行ったことを出そうとすれば、眼鏡の男はキッパリと言い放った。
何だかイラつく奴だな。
こいつは合わない……。
「あっそ」
「……ですが、見逃すのは今回だけですので」
お前に決める権限なんてないっての。
私は次もバーボンを助けるつもりだけど、それでも私を捕まえる気なら狂ってる。
上司の命と私の逮捕じゃ価値が違うんじゃないの?
フンと顔を逸らして、建物の中に入った。
降谷が治療している場所とは距離の離れた仮眠室に案内される。
セーフハウスというけれど、それこそ山奥にある泊まり用の施設みたいな造りで広い。
部屋に入ってすぐに外に監視がつくのがわかったけれど、気にはならなかった。
バーボンがいるんだ。
たぶん無事には帰らせてもらえるだろう。
どちらかと言えば帰った後の方が問題だ。
ジン……。
どうしようか。なんて言い逃れをする?
どこにいたって聞かれたら、なんて答えればいい?
どうか何も気づかないで。
何も気づかずに今まで通りに過ごせるのが一番……。
「……」
一番いい。そう思いかけたのが、ストップをかける。
本当に、それが一番いいの?
ジンがトリガーを引く瞬間のあの指や、射るような視線が好きだったけれど……。
今回は、ジンのことどうしてか許せないよ。
撃つ瞬間を想像しても、全然本能なんて反応しない。
一瞬で複雑になってしまったバーボンをめぐる組織の関係を考えると、本当頭が痛くなってしまう。
ジンへの接し方やバーボンの生かし方。
何の解決策も見いだせないまま、問題が困難になったという事実だけが今の私にハッキリとわかることだった。